佐藤美雪

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 わたし自身の父は、わたしが学生の頃に病気で亡くなった。わたしは父の保険金で東京の大学に入れたようなもの。母も公務員として働いていたから、父が亡くなってからも、わたしは経済的な心配をしたことはなかった。  大学を卒業して就職した会社で、わたしは夫になる佐藤に出会った。わたしはのんびりした性格で、仕事の方もさほど有能とは言い難い事務職。そんなわたしのどこがよかったのかはわからないんだけど、佐藤にすごく積極的に迫られて親しくなり、わたしは佐藤と、いわゆるできちゃった婚をすることになった。  佐藤はかなりきつい性格で、わたしとは対照的に仕事のできる人で、出世間違いなしと言われていて、結婚当時は同僚たちにかなり羨ましがられた。  なんとなく――“出世間違いなしの人”って、“(人の)好い人”じゃないような気がして、わたしは初めのうちは積極的な佐藤に気後れしてたんだけど、仕事のできる佐藤は“成婚”というプロジェクトにおいても有能で、きっちり成果を出してみせた――ってことなのかな。もしかしたら、わたしは、出世欲旺盛で仕事一筋の佐藤に、『家庭を守るのに向いている』と見込まれたのだったかもしれない。  わたしは華やかな美人じゃなかったし、人様にもらう褒め言葉でいちばん多いのは『優しい』、次が『おおらか』や『くつろげる』、四番目くらいに『可愛い』だったかな。  佐藤とは結局できちゃった婚になったわけだけど、あれも佐藤の策だったのかもしれない。  父が亡くなっていたから、当時のわたしの田舎じゃまだまだ眉をひそめられる不始末だったできちゃった婚を叱る人はいなかった。わたしのできちゃった婚を、本家の人たちがどう言っていたのかは聞かされなかった。今も知らない。田舎の本家と東京のわたしの唯一のパイプ役だった母には、そんなことはどうでもいいことだったんでしょうね。
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