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祐一(ゆういち)は次の町に向かっていた。ここは北海道。次の町までの道のりは長い。雪道の中、広がるのは雪原ばかりで、その中に一直線の道路がある。道路のセンターラインの上には矢印があり、センターラインの位置を示している。走っている車は全くと言っていい程なく、本当にこの道は需要があるんだろうかと疑問に思ってしまう。だが、この道しか他の町とを結ぶすべはなく、重要な道路となっている。
「うーん、早く次の集落に行かないと」
祐一は大学生。長い冬休みを利用してドライブをしていた。祐一はドライブが趣味で、北海道の広大な大地をドライブするのが好きだ。
「真っ白だなー」
辺りは真っ白だ。夜になって辺りがふぶいてきた。とても寒い。できるだけ外には出たくない。早く次の町に行かないと。
と、祐一はある物を見つけた。雪原にある廃屋のようだ。もう何十年も誰も住んでいないように見える。
「ん? ここは?」
もう夜は遅い。今日はここで車中泊でもして、その先へ行こうかな?
祐一はその廃屋の前に車を停めた。祐一は車から出て、その廃屋を見上げた。暗くてよく見えないが、今にも雪につぶされて崩れそうだ。
「寒いなー」
祐一は寒さで身が震えた。早く温かい車内に戻ろう。
「廃屋・・・、だよな・・・」
祐一は目を疑った。ここには集落がないと聞いたが、この建物は何だろう。ひょっとして、幻覚ではないだろうか?
「こんな所に集落、あったっけ?」
祐一は首をかしげた。時のかなたに忘れ去られた集落だろうか? まぁいい。もう夜も遅いから寝よう。
「まぁいいか。もう夜も遅いし、眠いからここで寝よう」
祐一はシートを倒し、寝袋に入り、寝入った。次の町に向かうのは明日にしよう。
すっかり寝入って数時間たった頃だ。突然、祐一は誰かに起こされた。誰かにゆすられているようだ。ここに住んでいる人だろうか?
「どうしたの?」
祐一は目を覚ました。そこには1人の女性がいる。その女性はとても美しい。肌は雪のように白い。
「あれ? 君は?」
「ここに住んでる人」
祐一は驚いた。ここに住んでいる人がいるとは。誰も住んでいないように見えたが。
「えっ、こんな所に住んでる人がいるの?」
「うん」
女性は微笑んだ。とても可愛い。生まれた時からここに住んでいるんだろうか?
「ここって、深幌(ふかほろ)っていう集落で、昔はとっても賑わいがあったんだよ」
「そうなんだ」
深幌・・・。全く聞いた事がない集落だ。すでに消滅し、忘れ去られた集落だろうか? 後日、また調べたいな。
「だけど、みんないなくなって、最後には私だけになってしまったの」
「そうなんだ」
北海道は過疎化が進んでいる。酪農や炭鉱、そして農業で栄えた所は、エネルギー革命や若者が都会へ引っ越していくのに従い、寂れていく。そして、集落そのものが消えていく。そんな中で深幌も過疎化が進んで、消滅した集落だろうか?
「私が生まれた頃には、もう寂れていて、子供が誰もいなかったの。小中学校はすでになくて、スクールバスで通ってたの」
女性が生まれた頃、すでに深幌は過疎化が進んでいて、ここにいる子供は彼女だけだったという。スクールバスで通うのは、もちろん彼女1人。寂しいけれど、6年間ずっとこんな生活だった。彼女の卒業と共に小学校は閉校。中学校は数えるほどしかいなかったものの、楽しい日々だった。高校はもっと遠い所だったが、それでも3年間通った。高校を卒業したら、ここで農業を行っているという。
「そうなんだ」
「だけど、この集落が好きで、ここにとどまってたの。だけど、誰もいなくなったの」
最後の1人になってしまい、寂しく思う時はある。だけど、ここに深幌という集落があって、栄光の日々があったのをしっかりと残しておきたい。そして、後世に伝えていきたい。
「ふーん。寂しそうだね」
「みんな、豊かさを求めて都会に行っちゃうんだ。そして、農村は寂れていく。それが時代の流れなのかな?」
女性は思った。みんな、豊かさを求めて東京に行ってしまうのかな? でも、それが時代の流れなんだろうか? そんな中で、深幌は寂れていくんだろうか? 再び栄光を取り戻すすべはあるんだろうか?
「悲しいけれど、そうかもしれないね。僕は都会に住んでるんだけど、普通に豊かだと思ってるよ」
祐一は都会に住んでいる。だけど、それを感じた事はない。豊かな日々が当たり前だと思っているようだ。だけど、ここに住む事を想像したら、都会の豊かさについて感じてしまった。
「そうなんだ。不便な農村はそして寂れていくんだね」
「うーん・・・。何とかならないのかな?」
女性は悲しそうな表情だ。誰も来てくれない。寂しい。
「難しい話だね」
「確かに」
まだ寝足りない。再び寝ないと。
「そろそろ寝ないと。おやすみ」
「おやすみ」
祐一は再び寝入った。女性はその様子を優しそうな目で見ている。
翌朝、祐一は目を覚ました。左には、昨日の夜に見た廃屋がはっきりと見える。やはり、昨日のは幻じゃなかったんだな。
「おはよう、って、あれ?」
だが、そこに女性はいない。あの女性は一体、何だったんだろう。
「これがその廃屋なのか」
祐一は再び降りて、廃屋を見上げた。相変わらず誰もいないように見える。だが、ここに人がいたとは。
と、祐一はある写真を見つけた。そこには、昨夜に出会った女性が写っている。昨夜に出会った女性とまるっきり一緒だ。だとすると、あれは幽霊だろうか?
「あれ? この人、幽霊だったのかな?」
祐一は少しゾクッとした。だが、寂しいからここにやって来たんだろう、かまってほしかったんだろうと思った。そう思うと、全く怖くなくなってきた。
「まぁいいか。次の町に行こう」
祐一は次の町に向かった。その様子を、1人の女性が見ている。だが、祐一の目には全く見えない。
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