埋もれる

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 祐一(ゆういち)は次の町に向かっていた。ここは北海道。次の町までの道のりは長い。雪道の中、広がるのは雪原ばかりで、その中に一直線の道路がある。道路のセンターラインの上には矢印があり、センターラインの位置を示している。走っている車は全くと言っていい程なく、本当にこの道は需要があるんだろうかと疑問に思ってしまう。だが、この道しか他の町とを結ぶすべはなく、重要な道路となっている。 「うーん、早く次の集落に行かないと」  祐一は大学生。長い冬休みを利用してドライブをしていた。祐一はドライブが趣味で、北海道の広大な大地をドライブするのが好きだ。 「真っ白だなー」  辺りは真っ白だ。夜になって辺りがふぶいてきた。とても寒い。できるだけ外には出たくない。早く次の町に行かないと。  と、祐一はある物を見つけた。雪原にある廃屋のようだ。もう何十年も誰も住んでいないように見える。 「ん? ここは?」  もう夜は遅い。今日はここで車中泊でもして、その先へ行こうかな?  祐一はその廃屋の前に車を停めた。祐一は車から出て、その廃屋を見上げた。暗くてよく見えないが、今にも雪につぶされて崩れそうだ。 「寒いなー」  祐一は寒さで身が震えた。早く温かい車内に戻ろう。 「廃屋・・・、だよな・・・」  祐一は目を疑った。ここには集落がないと聞いたが、この建物は何だろう。ひょっとして、幻覚ではないだろうか? 「こんな所に集落、あったっけ?」  祐一は首をかしげた。時のかなたに忘れ去られた集落だろうか? まぁいい。もう夜も遅いから寝よう。 「まぁいいか。もう夜も遅いし、眠いからここで寝よう」  祐一はシートを倒し、寝袋に入り、寝入った。次の町に向かうのは明日にしよう。  すっかり寝入って数時間たった頃だ。突然、祐一は誰かに起こされた。誰かにゆすられているようだ。ここに住んでいる人だろうか? 「どうしたの?」  祐一は目を覚ました。そこには1人の女性がいる。その女性はとても美しい。肌は雪のように白い。 「あれ? 君は?」 「ここに住んでる人」  祐一は驚いた。ここに住んでいる人がいるとは。誰も住んでいないように見えたが。 「えっ、こんな所に住んでる人がいるの?」 「うん」  女性は微笑んだ。とても可愛い。生まれた時からここに住んでいるんだろうか? 「ここって、深幌(ふかほろ)っていう集落で、昔はとっても賑わいがあったんだよ」 「そうなんだ」  深幌・・・。全く聞いた事がない集落だ。すでに消滅し、忘れ去られた集落だろうか? 後日、また調べたいな。 「だけど、みんないなくなって、最後には私だけになってしまったの」 「そうなんだ」  北海道は過疎化が進んでいる。酪農や炭鉱、そして農業で栄えた所は、エネルギー革命や若者が都会へ引っ越していくのに従い、寂れていく。そして、集落そのものが消えていく。そんな中で深幌も過疎化が進んで、消滅した集落だろうか? 「私が生まれた頃には、もう寂れていて、子供が誰もいなかったの。小中学校はすでになくて、スクールバスで通ってたの」  女性が生まれた頃、すでに深幌は過疎化が進んでいて、ここにいる子供は彼女だけだったという。スクールバスで通うのは、もちろん彼女1人。寂しいけれど、6年間ずっとこんな生活だった。彼女の卒業と共に小学校は閉校。中学校は数えるほどしかいなかったものの、楽しい日々だった。高校はもっと遠い所だったが、それでも3年間通った。高校を卒業したら、ここで農業を行っているという。 「そうなんだ」 「だけど、この集落が好きで、ここにとどまってたの。だけど、誰もいなくなったの」  最後の1人になってしまい、寂しく思う時はある。だけど、ここに深幌という集落があって、栄光の日々があったのをしっかりと残しておきたい。そして、後世に伝えていきたい。 「ふーん。寂しそうだね」 「みんな、豊かさを求めて都会に行っちゃうんだ。そして、農村は寂れていく。それが時代の流れなのかな?」  女性は思った。みんな、豊かさを求めて東京に行ってしまうのかな? でも、それが時代の流れなんだろうか? そんな中で、深幌は寂れていくんだろうか? 再び栄光を取り戻すすべはあるんだろうか? 「悲しいけれど、そうかもしれないね。僕は都会に住んでるんだけど、普通に豊かだと思ってるよ」  祐一は都会に住んでいる。だけど、それを感じた事はない。豊かな日々が当たり前だと思っているようだ。だけど、ここに住む事を想像したら、都会の豊かさについて感じてしまった。 「そうなんだ。不便な農村はそして寂れていくんだね」 「うーん・・・。何とかならないのかな?」  女性は悲しそうな表情だ。誰も来てくれない。寂しい。 「難しい話だね」 「確かに」  まだ寝足りない。再び寝ないと。 「そろそろ寝ないと。おやすみ」 「おやすみ」  祐一は再び寝入った。女性はその様子を優しそうな目で見ている。  翌朝、祐一は目を覚ました。左には、昨日の夜に見た廃屋がはっきりと見える。やはり、昨日のは幻じゃなかったんだな。 「おはよう、って、あれ?」  だが、そこに女性はいない。あの女性は一体、何だったんだろう。 「これがその廃屋なのか」  祐一は再び降りて、廃屋を見上げた。相変わらず誰もいないように見える。だが、ここに人がいたとは。  と、祐一はある写真を見つけた。そこには、昨夜に出会った女性が写っている。昨夜に出会った女性とまるっきり一緒だ。だとすると、あれは幽霊だろうか? 「あれ? この人、幽霊だったのかな?」  祐一は少しゾクッとした。だが、寂しいからここにやって来たんだろう、かまってほしかったんだろうと思った。そう思うと、全く怖くなくなってきた。 「まぁいいか。次の町に行こう」  祐一は次の町に向かった。その様子を、1人の女性が見ている。だが、祐一の目には全く見えない。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加