震 告

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 ここから先へ進まない方がいいと親子の前に立つ自分の姿を想像してみる。明らかに変質者だ。もしかしたら警察を呼ばれるかもしれない。しかし、変質者だと思われてあの親子の行動を変えることで、少女の命を救うことが出来る可能性はある。  自問自答している間に、親子は車の行き交う交差点に辿り着く。信号は赤。母親は少女の手をギュッと握り、片方の手でスマホを弄っている。  止めるなら今しかない。  信号待ちしている親子の前に立った私は、「あの、もしよかったらインタビューに答えてはもらえませんか? 今、作成している論文に仲の良い親子をテーマにした箇所があって」と明らかに無理のある設定で話しかけた。  母親は怪訝な顔で首を傾げ、「今時間がないので」と私を通り過ぎていく。 「待って! お願いします。これ以上進んだらいけない」  そう言って両手を広げ、再び親子の前に立ちふさがる。少女の顔に視線を向けるが、震えは治まっていない。
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