45人が本棚に入れています
本棚に追加
首を傾げながら用を足し終え、先程座っていた場所に戻る。
「翔子、なんか叫んでなかった?」
「えっ、あぁ……ちょっと転びそうになって」
私がそう言って美玖に愛想笑いを返した時、斜め前に座る安原の顔が小刻みに震えているように見えた。炎から立ち昇る煙でそう見えているのかと目を擦ってみるが、安原の震えは治まらない。まるで安原の顔だけがコンピュータのバグに侵されているようだ。
私が目を細めてていると、安原は「どしたん?」と声を掛けてくる。目を丸くして言葉を返してきたように見えるが、顔全体がブレて見えるのでハッキリとした表情は分からない。
酒には強いと思っていたが、慣れない環境でいつも以上に酒が回ってしまったのだろうか。そう思いながら眉間を指で摘まむと、安原が私の背中を擦って来た。
「今日は早めに寝た方がええかもしれんな。テントまで送ろか?」
「いい。大丈夫……ごめんね」
私は安原の顔を見ないようにそう告げ、テントへ戻っていった。
最初のコメントを投稿しよう!