震 告

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 それから二週間が経過し、無人島での話を口にするものは居なくなっていた。お互いに気を使っていたのではと初めは思っていたが、単純にあの日のことを誰も思い出したくないのだろう。  私は既に安原の事よりも、通夜で見た顔の震えた老人がどうなったのかが気になっていた。もし、死が近い人間の顔だけが震えて視えるのなら、あの老人は既にこの世に居ないはずだと。 「翔子、どしたん? 最近、めっちゃ無口やん。まぁ、明るくしろってのも無理かもやけど」  美玖はそう言って私の脇腹に肘をあて、「カラオケでも行く?」と続けた。  私は無言で頷き、美玖に引かれるがまま歩いていく。  大通りを抜けて繁華街に入ると、帰宅途中の学生や買い物に向かう主婦で溢れていた。なるべく人の顔を見ないようにつま先を見ながら歩いていると、母と手を繋ぐ幼稚園くらいの少女とすれ違った。
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