ポケットさん

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 田舎(いなか)と言われているけれど、訪れてみると大抵のものは市内で完結できる便利さに「ちょっとした都市じゃん!」と認識を変更されるちょっと残念な市、千森市(せんもりし)。ここにはちょっと変わった人(?)がいる。  年齢不詳(ねんれいふしょう)の女性でお散歩好き。服装はその時の気分でワンピースだったり、スポーティーな格好だったり、スーツだったりするようだ。共通点はどの服装の時でもポケットがたくさんあるということ。傍目(はため)にはわからなくてもどこからともなく物が出てくる。ミステリアスで、おちゃめで、無邪気なその人はいつの間にか『ポケットさん』と呼ばれるようになった。  ポケットさんは神出鬼没(しんしゅつきぼつ)。妖精さんと(たと)えられたり、魔女と例えられたりするのも納得だ。困っている人、泣いている子どものもとに現れるという話が大多数。ごく一部にポケットさんを死神だという人がいるらしい。  僕、三橋 風馬(みつはし ふうま)は小さなローカル雑誌の記者としての最初の特集でポケットさんを取り上げることにしたのだ。そして、いざ情報を(つの)れば集まること集まること。風馬はピックアップしてまとめ始めた。
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