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姉ちゃんの休日。
日曜日の午後三時。一階のリビングで、だらだらとスマホをいじっていた。推しキャラのイラストを見比べ始めてから、かれこれ三十分は経っている。アニメ版とゲーム版なら後者の方が塗りは好きだけど、やっぱり表情が動くアニメ版もいいよなぁ。そんなことを考えながら、色々な人がどっちかに寄せた、或いは自分の画風を全面に押し出したイラストを何十枚も見比べる。我ながら、中身は空っぽだけどいい休日だ。会社員の二十一歳として、充実しているかどうかはわからない。でも自分としては満足だ。休日なんてそんなものでいい。
ふと喉の渇きを覚えて冷蔵庫へ向かう。だけど中には水と緑茶しか無かった。取り敢えずコップに緑茶を注ぎ、一息に飲み干す。シンクを見るとお昼に使った食器が水に晒されていた。洗っておかないと、買い物から帰って来た母さんにまた嫌味を言われてしまう。渋々ながらも片付けに取り掛かる。しかし母さんは私に小言を零すけど、弟の聡太にはほとんど言わない。姉弟間で扱いが違うのは納得いかないけど、まあ私が娘なのもあって怒りやすいのだろう。それに聡太はのらりくらりと躱すから手応えが無いんだよね。お説教をする側が諦めてしまう。マイペースなあいつは人生を存分に謳歌するに違いない。
そんなことを考えている内に洗い物を終えた。アイスでも食べたい気分だ。今度は冷凍庫を開ける。だけどアイスは見当たらなかった。しょうがない、近所のコンビニに行くか。歩いて十分のところだし、部屋着にパーカーでも羽織ればいいよね。
玄関へ向かうと丁度聡太が帰って来た。ただいま、と靴を脱ぐ。
「あ、コラ。あんた、また勝手に私のパーカーを着て行ったでしょ」
「だって二階まで取りに行くの、面倒臭かったんだもん。姉ちゃんはいつも玄関にかけっぱなしだろ。いいじゃん、ちょっと借りるくらい」
「……別にいいけど一言言いたい」
「何それ。まあいいや。サンキュね」
そう言って脱いだパーカーを無造作に渡される。これが推しキャラの脱いだパーカーだったら喜び勇んで匂いを嗅ぎながら着るのにな。まあ彼は画面の中から出て来ないんだけど。しかし私だって普通より痩せ気味の体型なのに、同じ服を平気で着られるとは我が弟ながら細い奴。何だか微妙に苛々する。
ともかく、パーカーを羽織った私は財布だけを持って家を出た。
「行ってらっしゃい」
「……行って来ます」
挨拶はちゃんとするのよね、あいつ。髪をかき上げ耳に引っ掛ける。少し気持ちがざわついた時に出る、私の癖。自覚しているけど害も無いのでやめる気は無い。
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