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レシートに記されていた物。
ぶらぶらと道を進む。十一月の街には秋の匂いが漂っていた。ちょっと不思議になる。紛れもなく、秋の匂い、とわかるのだけど一体何の香りなのかな。キンモクセイはわかる。でもそれだけじゃない。葉っぱかな。落ち葉とか? 腐葉土? それは嫌だな。あとは空気の感じが独特だ。乾燥し始め、やや冷たくなってきた奥に、潜む冬の気配が見える。寒いのは苦手だから少し気が滅入る。冬、特に来月は世間的にイベントが多い。だけど私には関係無い。クリスマスは街が華やぐから嫌いじゃないけど私自身は華やがない。華やいだ試しがない。年越しも、折角一年頑張って来たのに大晦日から元旦になった瞬間、三百六十五日がリセットされた気分になるので好きじゃない。私にとってはただただ寒いだけ。気が重くなる。そんな風に寒さへ怯えている割に、今日の私はアイスを食べたい気分だ。変なの、とパーカーのポケットに手を突っ込む。その時、紙の感触がした。何だろう、と引き摺り出す。それは握り潰されたコンビニのレシートだった。慎重に開いてみる。今日の日付、時間も今から二十分前。聡太が買った物らしい。お菓子。ジュース。そして一番下に記されていたのは。
大人の、アレ。
え、嘘。嘘でしょ。目を擦り、もう一度商品の名前を見直す。大人が、二人で、ベッドに入ってイチャコラする時に使う、アレ。間違いなく、購入物として記されていた。しかも二箱も。
鼓動が徐々に高まる。髪を耳にかける。弟が、四つ下のまだ十七歳、男子高校生の聡太が、大人のアレを二箱買った? まさか、嘘だ。そうか、私は日付を見間違えたんだ。きっと一年前の今日に違いない。何度も洗濯しているけれど、たまたま入り込んでいたんだよね。ほら、父さんか母さんが勝手に着て行って買ったんだ。……それはそれで嫌だけど、とにかく聡太じゃなければなんでもいい。スマホを開き今日の年月日を確認する。そしてレシートに目を落とす。今年の今日の二十分前に購入された物の一覧に違いなかった。
荒い息を吐く。認めるしかない。聡太は大人のアレを二箱買った。四つも上の私が購入は勿論、使った経験も無いアレを。まだ十七歳、男子高校生の聡太は買ったんだ。当然、使い道があるわけで、弟は既に大人への怪談を上り始めたことを意味する。現実逃避のために、聡太の思い出を脳内に展開する。
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