男子三人で一体何を。

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男子三人で一体何を。

 スマホをいじりながら床に寝そべっていると隣室の扉が開く音が聞こえた。 「じゃあまたね。綿貫君、アプリでの自主トレ頑張って」  女の子の声が聞こえた。二人分の足音が遠ざかって行く。聡太が見送っているのかな。三度コップで隣室の様子を伺う。 「お前、弱すぎ」 「うるせぇ。革命さえ、革命さえ起こせれば」 「革命に頼りすぎだろ」 「だって大抵手札が雑魚いんだもん」 「引き、弱いもんな」 「うるせぃ」  男の子二人の話し声が聞こえた。男子だけ残ったんだ。ちょっとして、聡太の足音が戻って来た。扉の閉まる音がする。流石に男子だけで残って大人のアレを使ってどうこう、なんて無いよね。壁から離れる。不自然な体勢をとっていたせいで首と腰が痛い。手で軽く揉み解す。さてと、コップを洗って片そうかな。そう思った瞬間。 「いってえっ」  悲鳴が聞こえた。かなり痛そうだ。……何で? さっきまで仲良くトランプをしていた三人が、急に殴り合いを始めるわけもなし。どうしたんだろう。気になってまた聞き耳を立てる。 「何やってんだよ」 「切れちゃった。まあ血は出ていないし大丈夫だ。それで、いいのか。こんな感じで」  切れた? 何処が? 「あぁ。そうすると溜まるって話だ」  溜まる? 溜まるって。何が? 何処に? ポケットからレシートを取り出す。一番下には大人のアレ。……溜まるね、コレに。 「そういうものなのか」 「らしいよ。確実とは言えないけど」  確実とは言えない。そうだね、百パーセントではないね。 「まあ実際やってみればわかるだろ」  実際、やるの? 「そうだな」  今から、其処で? 「誰が一番溜まるか競争な」  聡太がとんでもない提案をした。待って。駄目、やめて。隣の部屋で、そんな男の子が三人でなんて。  咄嗟にコンビニで買ってきたお菓子を掴む。走って聡太の部屋の前に立ち扉をノックした。姉として、弟の爛れた友人関係は見過ごせない! 「聡太、お友達? お菓子買ってきたけど、いる?」  平静を装って声をかける。だけど心臓は相当な早鐘を打っていた。お願い、出て来て。ちゃんと服は着ていてね。  と、思うや否や、扉はすぐに開いた。 「お菓子? いいの? 珍しいじゃん」  あっさりと聡太が顔を出す。下半身を仕舞う暇も無かったはずだけど、ちゃんとズボンを履いていた。 「あ、うん」  そっと室内を覗き込む。見覚えのある男子が二人、ちゃんと服を着て床に座っていた。 「あ、こんちわ」 「こんにちわっ」  挨拶をされ、どうも、と会釈をする。落ち着いているのが田中君、元気なのが綿貫君だっけ。二人の手に握られているのは大人のアレと、財布。私の視線に気付いた綿貫君が、いや違うんですよ、と何故かこっちへ駆け寄って来た。 「これは決してやましい意味があるわけではなく、学校で財布にコレを入れるとお金が溜まるって噂を聞いたから三人で実証実験をですね」 「落ち着けよ綿貫。テンパると逆に怪しく見える」  聡太に指摘され、綿貫君は口に手を当てた。財布と大人のアレが私の目の前にやって来る。男の子が持っているといよいよ生々しい。溜息が漏れる。呆れるついでに現実を教えてあげよう。 「あのね、お金が溜まるっていう噂は言い訳なんだよ。財布に入れて持ち運んでも違和感が無いよう広まったの。あとは見付かっても冷やかしたりしないようにね」  冷やかすよりも大事な目的をソレは持っているもの。 「え、じゃあお金溜まんないの?」  綿貫君が目を丸くした。 「でも何でコレを財布に入れると金が溜まるんだって疑問は解消された」  田中君は深々と頷く。聡太は私を見詰め、マジか、と呟いた。 「マジだ」 「むしろ買って来た分、金が出て行ったんだけど」  茫然とする弟の肩を、ドンマイ、と叩く。ついでにパーカーのポケットからレシートを取り出し押し付けた。 「さっきわざわざ買ったんでしょ。そういうデリケートな物を買った時のレシートは、取り扱いに気を付けなさい」 「……わかった」  そうしてついつい髪をかき上げる。 「あれ。姉ちゃん、耳の周りに赤い線がついているよ?」  その指摘に、気のせい、と背を向けそそくさと自室に戻った。お菓子ありがと、と声が聞こえる。扉を閉めて息を一つ吐いた。男子高校生なんてこんなものだよね。心配して損しちゃった。そして私は心の底から安堵するのだった。聡太が、私の弟が、まだ子供で良かった。
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