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歪な家族
この非現実的な現象は、思った以上に便利だった。
ゴミを都度捨てられて、衛生的。
家族にバレずにゴミ袋に入れようと、全員が布団に入るのを待つ必要もない。
ゴミの受け取りがこんなにもストレスフリーになるとは思わなかった。
一度笑顔で「ありがとう」と返してみたら、愛が目をまん丸に見開いて、ちょっと面白かった。
「知希くん、最近楽しそうね」
円香が食事中に話しかけてくる。
食卓には知希の好物が多く並んでいる。
愛は無表情だ。
「別に……テストの点がよかっただけ」
嘘ではないことを答えておくと、円香の顔がパッと明るくなった。
「そうそう、満点だったのよね。おめでとう。ご褒美に、新しいゲームを買ってあげましょうね」
驚いて顔を上げると同時に、愛が勢いよく立ち上がった。
「ママ! 私だってクラスで一番だったわ! 私にも何か買ってよ!」
「愛は、お姉ちゃんになったでしょ? また今度ね」
円香が眉を八の字に下げながらいうと、愛は静かに座り直した。
円香はホッと息を吐き、二人に背を向けてキッチンへ戻る。
知希は見逃さなかった。
その瞬間、愛が恐ろしく歪んだ顔で知希を睨みつけたことを。
円香とどのゲームが欲しいか話し合ってから部屋に戻ると、何か変な匂いがした。
ランドセルの中を除くと、晩御飯で出た唐揚げの食べかけが放り込んである。
知希は無意識に歯を食いしばり、ティッシュで摘んでポケットの中へ唐揚げを捨てる。
その日はランドセルの中身をひっくり返して、ウェットシートで油を拭き取っていたら、寝るのが遅くなってしまった。
結局ゲームを買ってもらう話は断ると、知希の誕生日の一ヶ月ほど前に円香が父にある話を切り出した。
「あなた、来月知希くんの誕生日でしょう? 家族でお出かけしない?」
「いいな。ちょうど仕事の繁忙期もひと段落する頃だし、知希には苦労させたから……」
「知希くん、理科の授業好きよね? 科学館とかどうかしら?」
知希の瞳がキラキラと輝く。
円香の照れ臭そうな、少し緊張したような顔を見て、知希は理解した。
彼女はランドセルに科学館のチラシだけ大事に取っていたことを知っていたのだ。
「円香さん、行きたい」
憧れの場所に行けるのが嬉しくて、知希は隣で青筋が立つほど強くフォークを握りしめる愛には気づかなかった。
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