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二つの写真
愛の部屋は年頃の女の子らしく、彼女の好きなアイドルのポスターで埋め尽くされていた。
正直初めて入ったので、どこに何があるかわからない。
小さな鏡台の上に櫛があったので、その近くに置いておくことにした。
近寄ってみると、一番上の引き出しが少し開いている。
知希は好奇心に駆られ中のものを取り出してみると、アルバムのようだった。
中を開くと、前の家族との写真が沢山貼ってあった。
どの写真も愛はとびきりの笑顔で写っていて、胸が痛んだ。
知希には、そもそも全員揃った家族写真がほとんどない。
途中で飽きて適当に中身を飛ばしたが、最後のページでまた手が止まった。
そこには、笑顔で映る知希の父と円香、そして互いにそっぽを剥きながらもかすかにはにかむ知希と愛が写っていた。
どくどくと、鼓動がやかましい。
(どうしてこの写真がここに……)
震える指先で写真を剥がし裏返すと、「弟と一緒に」と手書きの文字が書かれていた。
目を丸くした知希は急いで自分の部屋へ帰りクローゼットを開ける。
奥にしまっておいたお菓子の空き箱を開ければ、全く同じ写真が入っていた。
ただし、裏には「姉と一緒に」と書かれている。
この写真は、初めて四人で顔合わせをしたときに撮影されたものだ。
知希はずっと兄弟が欲しいと思っていたので、素直に姉ができて嬉しかった。
でも実際に生活が始まると、愛の態度は姉と呼ぶにはあまりに程遠い物で、所詮義理の姉弟などそんな物だと思っていた。
知希は二枚の写真を並べて視線を落とす。
(愛も、俺と同じ気持ちだった? 弟ができることを楽しみにしてくれてた? でもまさか……)
「知希くん? 中々来ないから呼びにきちゃった」
知希は咄嗟に写真を後ろ手に隠した。
けれど、どう考えても何か隠した瞬間を見られたはずだ。
内心焦っていると、円香は少し間を置いてから穏やかに微笑んだ。
「知希くんが言いたくないことは、無理に聞かないからね。でも、話せる時はなんでも話して? 言葉で言わないと伝わらないこともあるから」
円香の言葉は、知希の胸にすとんと落ちた。
ケーキだけ食べて、知希は急いで部屋に戻ってきた。
二枚の写真をズポンのポケットに入れて、いざパーカーの前に立つ。
大きく深呼吸。
(ちゃんと、聞いてみよう。どうしてこの写真を持っていたのかって。俺のこと、本当はどう思ってるのかって)
知希はポケットに手を添える。
それだけでは何も起こらないが、今までの経緯を振り返って、すでにポケットに消える法則はつかんでいた。
「俺なんていらない」
手が思い切り引っ張られる感覚がして、自室を移していた視界がぐにゃりと歪んだ。
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