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ゴミ箱になったポケット
知希の掌に義姉の愛がかじった菓子が乗っている。
「それ、あげる。美味しくなかったから」
笑いながら愛は別の包みをあけ中身を頬張る。
立ち尽くす知希の背後から継母である円香が近づいてきた。
「知希くん? どうかした?」
反射的に知希は手の指を閉じる。
「このお菓子美味しかったから、知希くんにもあげたの」
愛が屈託のない笑顔を向けると、円香の顔が綻ぶ。
「すっかり仲良しさんね。愛もお姉ちゃんが板について」
「まあねー」
知希は黙って二人に背を向け、階段を上る。
「知希くん、明日ゴミの日だから、また部屋のゴミを玄関の袋に入れておいてね」
知希は一度立ち止まって頷いてから、二階へと上がった。
自室にあるゴミ箱は蓋がないので、中の物が丸見えだ。
知希はため息をついて、壁にかけたパーカーのポケットに先ほどの菓子をねじ込んだ。
指先にティッシュや布の感触がする。
鼻を噛んだティッシュを渡されたのは昨日。
穴の開いた靴下を渡されたのは一昨日。
(やっと今夜捨てれるな)
無意識に肩の力を抜く。
以前、もらったお菓子をすぐゴミ箱に捨てたら、円香に見つかって怒られた。
食べ物を粗末にするな、と。
知希はベッドに寝転がり深いため息を吐いた。
(面倒なんだよな、ポケットに溜めとくの。不潔だし……いっそ、ポケットの中がゴミ箱になればいいのに)
段々瞼が重くなってきて、知希はいつの間にか意識を手放した。
目を覚ました時には、部屋も外も真っ暗だった。
時刻は真夜中の十二時。
思わず頭を掻いて階段を降りれば、テーブルに「ご飯は冷蔵庫です」というメモが置いてあった。
キッチンに目を向けた際、玄関にゴミ袋が見えて、部屋に蜻蛉返りする。
不透明のポリ袋を二重にして、ゴミを移そうとパーカーのポケットに手を入れて、知希は固まった。
ポケットの中が空だ。
部屋のゴミ箱を確認するも、中身は見つからない。
急いで玄関先のゴミ袋やキッチンのゴミ箱まで確認したが、どこにもない。
この不可解な出来事の原因は翌日すぐに判明した。
新たに愛からもらった割れた消しゴムのかけらをポケットに入れた瞬間、すぐに消えてしまったのだ。
知希は胸が高鳴った。
──本当にポケットの中がゴミ箱になった。
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