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「旦那さま、素敵なペンダントをありがとうございます。私、嬉しくて、さっそくつけてしまいましたわ」  私の揺さぶりに、旦那さまは顔を青ざめさせるかと思いきや、ほんのりと嬉しそうに微笑んだ。うん、なぜだ? なぜ少女のようにはにかむ。畜生、かわいいぞ、こんにゃろう。 「よかった。いつもはデザインセンスがないだの、もうちょっと色の組み合わせはどうにかならなかったのかだの、言っていただろう。僕では、君に似合うアクセサリーを用意できないと落ち込んでいたところだったから、君が気に入ってくれて本当に嬉しい」 「旦那さま、これは旦那さまが私のために選んでくださったものなのですか?」  愛人のためのものではなく、最初から私のために選んだのか。それを確認するつもりで聞いたのだが、その瞬間、夫はさっと顔を青ざめさせた。 「……やっぱり、君には全部お見通しなのだね」 「……旦那さま。私、こんなことで怒ったりはいたしません。ですが、しょうもない嘘を吐かれるのは好きではありませんの」 「本当にすまない。実は……そのアクセサリーは親友が選んでくれたものなんだ」 「は?」 「僕みたいな陰気で貧乏な男のところに嫁いできてくれたというのに、僕は君のあまりの美しさに固まってばかりで。初夜まで君に頑張ってもらって、本当に情けない。君の喜ぶ顔を見たいと思って、親友に相談したらプレゼントを贈るのが一番だとアドバイスされてね。でも、そもそもプレゼントを買う元手は君のご実家の援助だろう? だからどんな顔をして渡していいかわからないと悩んでいたら、部屋に置いておけば気づいてもらえるから大丈夫って教えてもらったんだ」 「うん?」 「実際、その通りで君はすぐに見つけたくれただろう。でも、僕のセンスが悪いせいか君はちょっとご機嫌が悪くて。何回か頑張ってみたけれど、どうにもうまくいかなくて悩んでいたら、また親友が声をかけてくれて。今度は彼が、そのペンダントを選んでくれたんだ。よかった、やっぱり友人のアドバイスを信用して本当によかったよ」  普段の陰気な顔はどこへやら、ふわりと微笑む夫の顔はたまらなく可愛かった。なんだこの生き物、可愛さで私の実家の財産を引き出すつもりか。いっぱい使って。  残念ながら夫のセンスが良くなったわけではないことが判明したが、問題はそこではない。見過ごせないのは彼の親友のことだ。一見、夫を支えるようなことを言っているが、彼のアドバイスはあまりうまいものではない。今回だってたまたま夫が正直に話したからことが露見したのであって、貴族ならではの腹の探り合いの中では誤解に誤解が積み重なり、婚姻関係は破綻していたかもしれない。 「へえ、あなたの親友が。なるほど、そういうことなの」 「ああ、本当に優しい友人なんだよ。明日の夜会には、彼も来る予定だから一緒に挨拶をしてくれたらとても嬉しい」 「わかりましたわ」  私はとびきりの笑顔とともに返事をした。
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