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「みいつけた!」  私は夫の部屋に隠されていた女もののアクセサリーを取り出した。自身の瞳の色に合わせたのだろう。めったに流通することのない大ぶりな石を惜しげもなく使用したペンダントが、小箱にしまわれていた。一歩間違えば下品になりそうなところを、ぎりぎり豪華と言える範囲で踏みとどめている絶妙なデザインだ。教育の甲斐があったようで大変嬉しい。 「今回のは結構素敵じゃない! ね、そう思うわよね」 「はい。ご結婚当初に比べますと月とスッポンかと」  歯にきぬ着せぬ物言いの彼女は、実家から連れてきた侍女だ。何でもはっきり言ってくれる性格を気に入っている。ちなみに夫の部屋を漁っていることに関して、彼女は何も言わない。夫側の使用人に対しても彼女が話をつけているのか、注意を受けることもない。何か言われても、言い負かしてやるけれどね? やはり持つべきものは有能な侍女である。  彼女も言っていた通り、結婚した当初の彼は、びっくりするほど趣味が悪かった。何をどう間違ったらこんなものを買う羽目になるのか。悪徳商人のカモにされているのではないか?と疑いたくなるような代物を何個も自室に溜め込んでいたのだ。行動の端々から何やら隠し事をしているらしいと気が付き、様子を探ったあげく、ゴミのような代物を見つけてしまったときの悲しさと言ったらない。 「お金を使うなら、美しく使えが我が家の家訓。たとえ愛人相手への贈り物であろうが、お金をドブに捨てるような真似はこの私が許しません」 「ごもっともです」  政略結婚の相手が愛人を抱えているなんて、掃いて捨てるほど聞く話だ。ありきたり過ぎて、涙も出ない。何だったら同じ敷地内で愛人を囲う馬鹿男だって少なくないのだ。妻の実家の金で、愛人への贈り物を買うことくらい目をつぶろう。だが、我が家の財産があんなダサ過ぎる装飾品に変わることだけは許せなかった。 「ほほほ、さあ、今夜はこの宝石をつけて夕食に出ることにいたしましょう。どんな言い訳が聞けるか、今から楽しみだわ」 「さようでございますね」  夫をつつくための良いネタが見つかったと私は、手に入れたペンダントに似合うドレスを選ぶべく侍女と共に自室へと引き上げた。
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