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「お嬢さま、今までの誤解のことについて説明なさらなくて良いのですか?」 「あら、だって可哀そうでしょう。数少ない友人に騙されていたなんて聞かされたら、彼、ショックで倒れちゃうかもしれないわ」  私の夫は友人が少ない。しかもコミュ障なわりに、善性が強い夫は自分の友人とあれば、多少不思議な指示を受けたとしても実行してしまうことだろう。よく今まで、身ぐるみをはがされずに生き残れてきたものだと思う。爵位の割に屋敷の使用人の数が少ないと思っていたが、もしかしたら夫を守り支えることができるような人間以外は、ふるいにかけられてきたのだろう。家令、グッジョブ。そんなあなたには、私の大切な侍女を娶ってほしいくらいだ。 「お嬢さま、今後のことですがいかがなさいます?」 「そうね、彼の親友とやらが黒幕なのは間違いないでしょう。まったく、ふてぇ野郎ですわ」 「さようにございますね」 「いくら私の夫が可愛らしいからって。浮気疑惑をかけて、夫を自分の手元に置いておこうだなんて言語同断。親友なら、友人の幸せを心から祈るものでしょう。絶対に許せないわ」 「……お嬢さま?」 「決めたわ。私、夫とのいちゃラブ新婚生活を彼の親友に見せつけようと思うわ。それで、目の前で自分の大切なひとが自分ではない他人に愛されて輝いていくさまを見て血の涙を流せばいいのよ」 「…お嬢さま」 「なあに? 何かこの計画に穴でもあるかしら」 「穴だらけですが、最終的に親友さんとやらが苦しむことには変わりありませんので、お嬢さまのお気持ちのまま、実行なさればよいかと」 「ありがとう。あなたなら、きっと協力してくれると思っていたわ!」  そうして、私は夫の親友をあおり散らかしてやることに決めたのである。  翌日、私は夫の親友とやらが選んだのだという、センスの良いアクセサリーはつけなかった。代わりに、夫が夫なりに一生懸命選んでくれたアクセサリーをたっぷりとつけた状態で、夜会に出たのである。はっきり言わせてもらうが、夫の選んだアクセサリーはダサい。けれど、私は極上の美女である。その私が似合うように使えば、それなりに見栄えのする使い方ができるのだ。一応弁明しておくが、私は自信過剰ではない。前世の記憶と審美眼から見ても、現在の私は本当に美しいのである。  夫の親友は、確かに夫から聞いていた通りの色男だった。一体どういうところで繋がりを得たのかと不思議だったが、私との婚約が決まったところで向こうから声をかけられたらしい。私の実家との繋がりを求めてのことかと警戒していたが、非常に気のいい人間だったらしく、すっかり仲良くなってしまったのだそうだ。  旦那さま、騙されておりますわよ。本当に気のいい人間であれば、政略結婚した新妻の誤解を招くようなアプローチを親友のあなたに教えることは致しまわせんわよ。ツッコミたくなるのを必死でこらえながら、私は夫から情報を引き出した。  なぜかわからないが、夫の親友を見るとひどく腹が立った。こちらの世界にありがちな女性蔑視発言や、セクハラ親父発言などなにひとつないにもかかわらず、非常に気に食わない。たぶん、私は夫の親友が細胞レベルで嫌いなのだと思う。理由? あの男が私を排除しようとしている。それだけで十分なのではないだろうか。
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