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さみしいふゆ
冬が来た。
だいきらいいな、冬が来た。
冬はさみしいから。
冬の寒さが、わたしをひとりぼっちにする。
わたしは冬がだいきらい。
だから冬休みなんて、ちっともうれしくない。
「リナ〜、仕事行ってくるね〜」
お母さんの声がトーストを食べていたわたしの手をぴたりと止めた。
「まって!」
イスをとびおり、玄関に回る。
お母さんはくつをはいてかばんを持ち、今にもお仕事に行ってしまうような気がした。
泣きたい自分をひっこめて、なんとか声をふりしぼった。
「行かないでっ…」
行かないで。
わたしをひとりぼっちにしないで。
そんなわたしの思いは伝わらない。
わたしのふるえた声を聞くと、お母さんは困った顔をして言った。
「ごめんね。」
ほんとにもうしわけなさそうな、お母さんの顔。
お母さんは優しく優しく言った。
「リナの気持ちもわかる。でも、お母さんはどうしてもお仕事に行かなきゃなのよ。お留守番できる?」
わたしの目から、涙がこぼれた。
ごめんなさい。
毎朝毎朝、いそがしいお母さんを困らせて、もう小学三年生なのに泣いて。
そんなのダメだってわかる。
でも。
わたしはひとりぼっちがいやだ。
さみしくて、さみしくて、気づけば涙がこぼれてる。
そんなわたしも、だいきらい。
「リナ。もう泣かないよ。ほら」
お母さんは、わたしの涙を優しくぬぐった。
「早く帰ってくるからね。行ってきます」
お母さんは、ドアをあけた。
冬のあわい光が、部屋に入ってきた。
ああ、行っちゃう。
また、ひとりぼっちになっちゃう。
行かないで。
ずっといっしょにいてよ…
ガチャン
ドアがしまる音が、家中にひびく。
…また、ひとりぼっちがやってきた。
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