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 舞台の幕が下りると同時に、おれはその場に座り込んだ。頭がぐらぐらする。逆立ちをいきなりやめたみたいに目の前がちかちかする。息が苦しいのに酸素を上手く吸えない。まだ水の中にいるみたいだ。  薄く目を開けると、舞台前方で歌い終わったシーが大股で駆け寄ってくる。走ったら切り終わってないマイクに足音を拾われるもんな。シーはやっぱりいつも完璧だ。 「おい、息しろ。大丈夫か」  シーの手がおれの両肩に乗った。頷いてみたけれど、息苦しいのは全然おさまらない。 「僕の呼吸を聞いて。合わせて」  シーが大げさに息を吸って、吐く。それに合わせて肩の上の手に力が入る。それでやっと普段通りの息づかいに近付けることができて、おれはシーの手を外した。 「具合が悪かったのか。それとも演技中にどこか痛めた?」 「……海に……」 「うん。海がどうした」  声がばりばりになっていて、無理やり唾を飲み込む。裏手へはけるのは、シーが肩を貸して手伝ってくれる。……それにしても下手くそだな。絶対一度もやったことがないやつの仕草だった。 「海を表現しようとした。だけど、いつもの暴走したって思うのとも違って、思うようにいかなかった」 「……それは僕も感じた。もしかしたら―」  と、裏でスタッフが待機している場所へ着くやいなや、楽屋に荷物を届けに来た同期がおれへ駆け寄ってきた。ボトルの水を渡してくれるのはありがたいが、どうしてそんなに青い顔で見てくるんだ。おれ、相当な病人みたいになってる? 「結果、出たんすけど」  特別公演の順位を決める観客投票には、会場枠と抽選配信のオンライン枠がある。いつもなら楽屋で確認するが、おれがもたもたしている間に結果が出たのか。  シーがおれを近くの椅子に座らせると、同期はタブレット端末でオンライン枠の観客が見ているものと同じ画面を見せた。  国際的なスポーツ大会の結果画面と似たレイアウトで、今回の公演に出た全ペアの名前が載っている。  おれも椅子から身を乗り出して画面に顔を近付けた。上位五番目までが入選扱いで、それ以外は選外になる。―選外の並び順は、もちろん投票数だ。 「……シー、これ」 「僕らの名前は、この、一番下にあるやつか?」  シーから上目遣いで睨まれた同期は、泣きそうな顔で頷いた。シーの目つきが良くないのは元々だ。じゃなくて。 「会場枠にはこれからアナウンスするんです。ってのも結果出た直後からずっと、オンライン枠がすげえ荒れてて。……シーさん、会見しなきゃかもって」 「カイケン?」 「奇跡の銀色が初の選外、最下位ってことで……囲み会見状態になる前に、正式に劇場側で場を設けるって」 「んなの、何も話すことないよ?」  シーは心底嫌そうに呟く。おれはその隣で、タブレットの画面を見続けていた。穴が開くくらい見たって結果は変わらないのに。  画面を見るしかなかった。シーの顔を見られなかった。  だって。  最下位の原因は、おれじゃないか。
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