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「師匠の強さの秘訣を教えてください!」
レオはキラキラとした瞳で尋ねてきた。
そんな彼に私は眉間を寄せる。
「……嘘つきには教えない」
先程のレオの嘘泣きにむかついていた私はツンとして答えた。
あんな風に泣かれたら周りに私が悪者みたいに思われるじゃん。しかも、無理やり弟子にさせたし。納得がいかない。
「俺は嘘つきじゃないっすよ?」
レオは困ったように眉を下げた。
そんな顔をしても許してやるもんか。
「さっき嘘泣きしただろ」
「あれは……どうしても弟子になりたくてつい。すみません」
そう言って、レオは頭を下げた。
う、嘘でしょ……。
その姿を見た私は全身にブワッと鳥肌が立つのを感じた。
あのレオが人に謝ってる!?
私が叱れば屁理屈ばかりこねるくせに。
素直すぎて気持ち悪い。
そのとき、ふと思った。
待てよ。この状況は利用できるんじゃないか?
私は、コホンと咳払いをした。
「わかった。さっきのことは許してやる」
「本当っすか?」
顔を上げたレオに私はぐっと親指を立てた。
「せっかくの出会いだし、怒ってるだけじゃもったいないしな!」
「……なんて広いお心なんだ!」
レオの顔はまるで教祖に心酔している信者のようだった。
私は心の中でニヤリと笑う。
これは都合がいい。
「それで、強さの秘訣についてだが」
「え!? 教えてくれるんすか!?」
パアッと目を輝かせたレオに私は頷いた。
よし、よし。いい反応だ。
「何事も全力投球することが大切なんだ! 例えば、『仕事』とかな!」
「……」
仕事という言葉を出した途端、レオの顔が急にズーンと暗くなった。あからさまだな。
「仕事は楽しくないのか?」
「別に……。そもそも俺は仕事に楽しさとか求めてないんで」
レオの目は絶望感に満ちた目をしていた。
どんだけ仕事嫌いなんだよ。
「……そ、そうか」
レオならそう言うとは思っていたけど、改めて言われるとショックだな。
私は少なくともマネージャーという仕事に誇りを持っているのに。
「楽に稼げそうだから始めたのに、中々大変で。それに上司が口うるさくて、いっつも俺のこと怒るんすよ」
レオは「はあ……」と深いため息をついた。
その上司って私のことだよね?
しかも今、口うるさいって言った?
「俺のことクズだの、仕事をしない給料泥棒だの。酷くないすか?」
いや、全部紛れもない事実だし。
「……じょ、上司は君のことを思って注意してくれてるんじゃないか?」
頬をひきつらせながらも、無理に笑顔を作って尋ねた私に、レオは声を荒げた。
「絶対、俺に対する嫌がらせっす! それに、あからさまに同僚だけ褒めるんすよ!? 最低でしょ!?」
最低なのはお前の勤務態度だよ。仕事をさぼってるお前が悪いってわかってんの?
「きっとその同僚が上司の好みのタイプだから扱いに差があるんすよ。あのロリコン上司め」
「へ、へぇ〜……! そうかそうか……! ずっとそんなふうに思ってたのか?」
誰がロリコンだって?
ワナワナと怒りが込み上げてくる。
こいつ、普段の自分の態度を棚に上げて、よくそんなことが言えるな。
私が必死に震える拳を抑えていると、レオはふいに遠くを見つめた。
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