問題児アイドル

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問題児アイドル

 私の名前は裏出(うらで)遊希(ゆうき)、26歳。職業、芸能事務所のマネージャー。  結成して1年目の2人組のアイドルグループ「ハルレオ」を担当している。 「レオ、ライブ中はちゃんとファンサしろって言ってるでしょ!?」  事務所のソファーに寝転んでいる男を私は見下ろした。だらしなく下がっているたれ目はいつ見ても眠そうだ。 「うるせえな、耳元で騒ぐなよ」  男はうざったらしそうに顔をしかめた。  反省の素振りさえ見せないその整った横顔を見ていると、腸が煮えくり返るような怒りが込み上げてくる。  彼の名前は葛木(くずき)レオ。ハルレオのメンバーの一人だ。年齢は23歳。少しウェーブがかかった黒髪に、甘く垂れた美しい目元。おまけに185cmという高身長だ。  見た目は文句なしにいい。  しかし、中身は救いようのないクズ人間であった。 「あんなライブをされたら騒ぎたくもなるわよ!」  ファンに手を振らない、笑わない、ダンスの振りは間違える。   そんなレオのやる気ゼロのパフォーマンスに、ファンたちはがっくりとした表情をしていた。  ああ……申し訳なさから土下座をしたくなる。  私が懺悔の気持ちに苛まれていると、 「それなら大丈夫。俺はクール系だからな!」  レオは得意げに、親指でビシッと自分を指差した。その自信はどこからわいてくるんだ。 「あんたの場合はクール系じゃなくて、表情筋が死んでる系でしょ」 「うわあ……今の言葉は傷ついた。というわけで……」  ニヤリと笑い、私に両手を差し出すレオ。 「何よその手は?」 「精神的苦痛を受けたので、慰謝料を100万円いただきます〜」  何が精神的苦痛だ。このクズが私なんかの言葉で傷つくわけがない。  というか、慰謝料なら普段レオに迷惑をかけられている私の方が貰いたいくらいだ。
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