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「ああっ、よかった! 春人君、助けてえぇ!」
その人物はもう一人のハルレオのメンバーだ。
真曽春人、22歳。サラサラとした栗色の短髪に、小顔で上品そうな顔立ち。そんな彼の優しい笑顔に魅了され、ファンになる人は多い。ハルレオの癒し担当だ。
「また二人はケンカをしているのか」
春人は、今にも泣き出しそうなレオと、殺気立っている私を見て大きなため息をついた。
「どうせレオが余計なことを言ったんだろうが……」
春人に視線を向けられたレオは抗議するように叫んだ。
「違う! 俺は悪くねえよ! マネージャーの現状にアドバイスをしただけだ!」
「……大きなお世話だ」
私はレオの首元を握る手に力を入れた。
「ぐふっ……」
うめき声を上げるレオ。
その様子を見てまずいと思ったのか春人は私をなだめ始めた。
「マネージャー、落ち着け! アイドル相手に暴力事件なんて笑えないぞ!」
確かに笑えない……笑えないが。
「……嫌だ」
私が首を横に振ると、春人は物憂げな表情を向ける。
「事件を起こしたら親御さんだって悲しむだろ?」
「そ、それは……」
私の脳裏に両親の顔が浮かんだ。愛情いっぱいに私を育ててくれたお父さんとお母さん。そんな二人の悲しい顔なんて見たくない。
「今ならまだ引き返せる。だから、レオの首から手を離すんだ、マネージャー」
人質をとり、立てこもる犯人を説得する刑事のような言葉を春人は投げかけてきた。
「わかってるけど! こいつがむかつくことばっかり言うから!」
私はギリッと歯を食いしばり、レオを睨みつけた。
次々と友人たちが結婚をしていく中、一人取り残されていく虚しさや悲しさ。そんな私のナイーブな気持ちを配慮せず、生意気なことを言うレオが憎たらしい。
すると、春人にポンと優しく肩を叩かれた。
「そうだな。マネージャーは悪くない。だから、そんな悲しそうな顔をしないでくれ」
「……春人」
「俺はいつもマネージャーには笑っていてほしいんだ」
温かい言葉に思わず泣きそうになる。
この子は天使か? 目の前の悪魔とは比べ物にならない。
私が感動していると、春人はレオに視線を向けた。
「レオはマネージャーに向かって失礼なことを言うのはやめろ。女性は繊細なんだから、優しく丁寧に扱わないといけない」
春人は微笑みながらそう言った。
ああ! なんて紳士的な言い方なの!
先程のレオの生意気な態度とは大違いだ。
レオが少しでも春人を見習ってくれたら私が怒る回数も減るのに。
「はっ! 人のことをすぐ殴る奴を女性とは言わねえよ。どちらかと言えば、マネージャーはゴリラだろ」
レオはふっと鼻で笑う。
その態度にイラッとした私はレオの首元を再び力を入れて握った。
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