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マネージャーの裏の顔
「今回のゲーム優勝者は『Uura』だあぁ!」
司会者の言葉と同時に会場中から歓声が湧き上がる。
Uuraこと私、裏出遊希は試合に勝てた安堵から大きなため息をつき、天井を見上げた。
たくさんの賞賛の声に、拍手の嵐。
思わず顔がにやける。
この自分を全肯定してくれる空間がたまらなく気持ちがいい。
(やっぱり、ゲームはやめられないな)
そう思わずにはいられなかった。
私は小さい頃からゲームが好きで、アクションや音楽、乙女ゲームなどジャンルを問わずプレイしていた。
趣味が高じて昔はゲーム実況配信をしていたが、社会人になってからは忙しさに追われ、今はしていない。
まあ、今だにゲームだけは続けているけれど。
社会人になればゲーム熱が少しはおさまるかと思っていたが、そんなことはなかった。
さらに、ここ1年は、仕事のストレスがたまりまくり(主にレオが原因)、余計ゲームにのめりこんでいるような気がする。
そんな私が参加したのは「Warriors」という1対1で戦う格闘ゲームの大会だ。
Uuraというハンドルネームで参加し、今回開催された全国大会で優勝した。
それほど、私はこのゲームにハマっている。
OLが陶酔するには、あまりにも漢気溢れる格闘ゲームの「Warriors」。そんなゲームに熱中しているだなんて知り合いにバレたとしたら、私は死ぬしかない……。
絶対に顔バレしたくない私は、マスクにサングラス、黒いキャップ、黒服という不審者ファッションで大会に参加した。
これだけ素顔を徹底ガードしていれば、バレることはないだろう。
「そろそろ帰るか……」
首から下げていたヘッドフォンを着け、試合会場をあとにしようとしたときだった。
「あ、あの! Uuraさんっすよね?」
突然呼び止められたことに驚き、ヘッドフォンを外す。
振り向いた先には男性が立っていた。
サングラスをかけていて、服装は黒Tシャツに白パンツ。黒いキャップを被り、首元にはゴールドのチェーンネックレスを身につけている。見た目はザ・チャラ男だ。
「はい……そうですけど。何か御用ですか?」
怪訝な顔をしている私に、チャラ男はばっと右手を差し出した。
ん? 何だこの手は。
「俺を……弟子にしてくれないっすか!?」
「……は?」
予想外のことにポカンと口を開ける私に、チャラ男は頭を下げた。
「いきなりすみません! 俺、ハンドルネームはクオンって言って……」
「知ってますよ。さっき対戦しましたよね?」
クオンは決勝戦で戦った相手だ。
見た目から苦手なタイプなので、できれば関わりたくなかったが、話し掛けられてしまった。
まさか、さっきゲームでボコボコにしたから、その報復をしに来たとか言わないよね?
恐怖心から顔を青くしていたときだった。
「……かはっ!」
クオンは膝から崩れ落ち、床にペタリと座り込んだ。苦しそうに荒い息を繰り返している。
「ええっ!? だ、大丈夫ですか!?」
気分でも悪くなったのかと思い、心配して近づくと、クオンはブルブルと肩を震わせていた。
「うう……漆黒のUuraさん、いや、神がミジンコな俺を認識してるなんて感動っす!」
「……ただのゲームオタクなんですけど」
涙声で語るクオンに私は頬をかいた。
この人、どんだけ私を神化してるんだ。
ちなみに、「漆黒のUura」というのは、私のプレイキャラが全身黒ずくめのロングコートを着ていることから付いた異名だ。
中二病臭プンプンだから呼ばないでほしいんだけど……。
「Uuraさんと対戦できただけでも嬉しいのに、俺のことまで覚えてもらえているなんて。はあ……涙が出てきた」
そう言って、クオンはサングラスを外し、涙を拭った。
「んなっ!!」
その素顔を見た私は脳内に稲妻が走った。
甘く垂れた美しい目元に、すっと通った鼻筋。この息を呑むほど整っている美しい顔立ちを私は知っている。
「ん? どうかしました?」
そこには、私の担当アイドル、葛木レオが今まで見たことのない天使のようなの笑みを浮かべていた。
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