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嘘でしょ。何でこんなところにレオがいるの? しかも、決勝戦の相手だなんて一体、どんな確率なんだ。
「あ、ああ……」
私はその場に座り込み、頭を抱えた。
「そんなことにお金と時間を使うなんてバカな人間のすることよ」
「ゲームをしたって何も残らないじゃない。いい歳なんだから、現実逃避はやめたら?」
ぐはーー! 昨日、あんなに偉そうなことを言ってたくせに、本人は生粋のゲームオタクだなんて示しがつかない! しかも、なんて見事なブーメラン発言だ。
……終わった。完全に終わった。さらば私のマネージャーライフ。明日から転職活動が始まるのか。
「顔色が悪いですけど、大丈夫っすか?」
項垂れていると、レオは私の背中をさすり、心配そうに声を掛けてきた。
「……あ、ありがとう」
普段からは考えられないレオの親切な対応に私は動揺しまくった。
こいつ、いつもより数倍優しいな。まるで、私だと知らないみたい……待てよ?
「あの……あなたと私は今日初めて会いましたよね?」
恐る恐る尋ねると、レオはにっこりと笑った。
「はい! だから、俺、Uuraさんに会えて嬉しいんすよ!」
レオの答えに私は心の中でガッツポーズをした。
よっしゃあぁ! 全然ばれてない!
危なかった。もう少しで仕事を辞めないといけないところだったよ。
このチャンスを逃すわけにはいかない。
「そうですか……じゃあ、さよなら!」
レオに背を向け、走り去ろうとしたが、「グンッ!」とつんのめった。腕を引っ張られたからだ。
「あの! 待ってください!」
私の腕を引っ張っているのはもちろんレオだ。振り解こうとしたが、びくともしない。
逃げられないと観念した私は仕方なく振り返った。
「な、何でしょう……はあっ!?」
私は唖然とした。
レオの鼻から赤い血がポタポタと垂れていたからだ。ホラーかよ。
ニコニコと笑っているレオは余計に怖い。
「鼻血、出てるじゃん!」
「……え?」
私の指摘にレオは自分の鼻まわりを触る。
どうやら鼻血が出ていることに今、気づいたようだった。
「うわ、本当だ。俺、師匠に会えて興奮してたから」
レオは「えへへ」と照れたようにはにかんだ。
「えへへじゃない! ほら! とりあえず、これ使って!」
慌ててポケットティッシュを渡すと、レオはまるで宝物をもらったような顔になった。
「Uuraさんからのプレゼント……もったいなくて使えません」
「それ朝、道端でもらったティッシュだから! ほら、これで鼻押さえて上向いて! とりあえず、あそこのファミレスに入ろう!」
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