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 開会式直前に委員長代理の牛窓(うしまど)が現れた。  晴海(はるみ)を見つけるとなれなれしく声を掛ける。 「おっ、晴海やないか。今日は、後輩の応援か?」 「お久しぶりです。今日は、生島先生に頼まれて、大会のお手伝いに来ました」 「そうか! それは助かる。弁当位は出すから、よろしゅうたのんます」 「はい!」  開会式は、淡々と行なわれ、最後に審判長から注意事項を発表する。 「では、審判長の鬼無(きなし)先生お願いいたします」  アナウンスされる。航太郎がマイクを持って選手の前に行こうとした時だ。  誰かに肩を(つかま)まれた。 「鬼無先生、このメモに書いてあることを必ず言って下さい」  晴海だ。航太郎は、メモを持って前に出た。  一通りルール説明の後、メモを読み上げる。 「えー、今日は、突然予測不能のブローが吹いてくるかもしれません。みなさんライフジャケット(救命胴衣)をしっかりと装着して下さい。そして、チン(転覆)をした場合絶対ヨットから離れないでください。必ずヨットを握って離さない事。チンを起こすのが困難な場合は、すぐに手を振ってレスキュー艇に知らせて下さい。スキッパー(艇長)は、クルー(乗員)の体調を考えて早めの対応を心がけて下さい。以上」  航太郎は、晴海と共に審判艇(しんぱんてい)の高速モーターボートに乗ることになった。浮桟橋(うきさんばし)で、小型のモーターボートがエンジンをかけてスタンバイをしている。船尾の船外機(せんがいき)を直接動かして操船する。スロットルを握っているのは、中年の女性体育教師で、濃いサングラスをしてあご紐をしたアポロキャップを被っている。 「ようこそ海燕(うみつばめ)へ! 屋島(やしま)高校の勝賀(かつが)です!」 「よろしくお願いします。補佐役の松平晴海さんも同行します」 「お願いします!」  晴海が、頭を下げる。 「よう、晴海ちゃん久しぶりじゃない。聞いたよインカレ(大学のヨット大会)全国大会優勝。高校でも大学でもぶっちぎりの優勝だね」  勝賀が、親指を立てる。 「あ、ありがとうございます」 「え、松平さんて、そんな凄い人だったんですか」  航太郎が目を丸くする。微笑む晴海。  ゆっくりと港内から出る小型モーターボート海燕(うみつばめ)。堤防を越えて外海に出ると、勝賀はスロットルをさらにひねった。風を切って疾走(しっそう)する海燕。バンバンと船底を水面に打ち鳴らしながら沖へと向かった。
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