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③
開会式直前に委員長代理の牛窓が現れた。
晴海を見つけるとなれなれしく声を掛ける。
「おっ、晴海やないか。今日は、後輩の応援か?」
「お久しぶりです。今日は、生島先生に頼まれて、大会のお手伝いに来ました」
「そうか! それは助かる。弁当位は出すから、よろしゅうたのんます」
「はい!」
開会式は、淡々と行なわれ、最後に審判長から注意事項を発表する。
「では、審判長の鬼無先生お願いいたします」
アナウンスされる。航太郎がマイクを持って選手の前に行こうとした時だ。
誰かに肩を掴まれた。
「鬼無先生、このメモに書いてあることを必ず言って下さい」
晴海だ。航太郎は、メモを持って前に出た。
一通りルール説明の後、メモを読み上げる。
「えー、今日は、突然予測不能のブローが吹いてくるかもしれません。みなさんライフジャケット(救命胴衣)をしっかりと装着して下さい。そして、チン(転覆)をした場合絶対ヨットから離れないでください。必ずヨットを握って離さない事。チンを起こすのが困難な場合は、すぐに手を振ってレスキュー艇に知らせて下さい。スキッパー(艇長)は、クルー(乗員)の体調を考えて早めの対応を心がけて下さい。以上」
航太郎は、晴海と共に審判艇の高速モーターボートに乗ることになった。浮桟橋で、小型のモーターボートがエンジンをかけてスタンバイをしている。船尾の船外機を直接動かして操船する。スロットルを握っているのは、中年の女性体育教師で、濃いサングラスをしてあご紐をしたアポロキャップを被っている。
「ようこそ海燕へ! 屋島高校の勝賀です!」
「よろしくお願いします。補佐役の松平晴海さんも同行します」
「お願いします!」
晴海が、頭を下げる。
「よう、晴海ちゃん久しぶりじゃない。聞いたよインカレ(大学のヨット大会)全国大会優勝。高校でも大学でもぶっちぎりの優勝だね」
勝賀が、親指を立てる。
「あ、ありがとうございます」
「え、松平さんて、そんな凄い人だったんですか」
航太郎が目を丸くする。微笑む晴海。
ゆっくりと港内から出る小型モーターボート海燕。堤防を越えて外海に出ると、勝賀はスロットルをさらにひねった。風を切って疾走する海燕。バンバンと船底を水面に打ち鳴らしながら沖へと向かった。
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