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 本部船は、全長10mほどの漁船だ。海燕(うみつばめ)で、引き上げた選手を本部船に乗り移らせる。牛窓(うしまど)の姿が見えない。 「あれ、牛窓先生は?」  航太郎(こうたろう)が、本部船の運営員に聞いてみた。 「機関室(きかんしつ)にいます。なんかぶつぶつ言って出てきません」 「おそらく恥じ入ってるんだろうよ。牛窓先生はほっといて早く選手を助けよう」  勝賀は、エンジンをふかす。  航太郎が、陸上本部に問い合わせたところ、64名が出艇して、48名の帰着が確認された。今、本部船に14名いる。陸上と海上であわせて、62名の無事が確認できている。  あと2人確認できていない! 「やばいよ、あと2人どこだ。岸の方に流されたか? 沖の方か。とにかくレース海面を走り回って探すか?」  その時。 「あ! あの全チンしているヨットで手を振っている選手がいます!」  双眼鏡で、見ていた運営員が指をさして叫んだ。  その方向を見定めて、海燕はフルスロットルでヨットに向かう。  全チンしたヨットの船底に立って、手を振っている選手が見えた。近づくにつれて異変を感じる航太郎。1人しかいない。  もう1人はどこだ? もし、船から離れていたら行方不明ということになる。 「助けて下さーい!」  船底に立っているのは女子の選手だった。泣き顔だ。 「もう大丈夫だ。もう1人はどこかな?」  立っていた女子を海燕に乗せ、航太郎は、ヨットの周りを見ながら聞いた。  女子は、船底を指さした。船底の下、つまりコックピットにいるのか。何でヨットから出てこない。  晴海が、海に飛び込む準備をしている。 「松平さんちょっと待って、こんどは僕が行く。君は、何度も海に浸かって疲れている。ここで待ってて」  晴海は、素直にうなずいた。やはり疲れているのだ。航太郎は、いつでも海に飛び込めるようにジャージにトレーナー姿だった。  一度潜ってヨットのコックピットに入るには、ライフジャケットの浮力(ふりょく)が抵抗になるが、潜るのは一瞬だ。行ける。 「先生、このロープの(はし)を持って行ってください。何かあればこれを引いて合図を。すぐに行きますから」  航太郎は、晴海が差し出したロープを受け取ると(てのひら)に巻き、海に飛び込んだ。  ヨットの船底をドンドンと叩き耳を当てる。反応がない。果たしてこの中にいるのか。航太郎は、ライフジャケットの浮力を受けながらも水中に没し、ヨットのサイドデッキからコックピットに入った。
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