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⑥
本部船は、全長10mほどの漁船だ。海燕で、引き上げた選手を本部船に乗り移らせる。牛窓の姿が見えない。
「あれ、牛窓先生は?」
航太郎が、本部船の運営員に聞いてみた。
「機関室にいます。なんかぶつぶつ言って出てきません」
「おそらく恥じ入ってるんだろうよ。牛窓先生はほっといて早く選手を助けよう」
勝賀は、エンジンをふかす。
航太郎が、陸上本部に問い合わせたところ、64名が出艇して、48名の帰着が確認された。今、本部船に14名いる。陸上と海上であわせて、62名の無事が確認できている。
あと2人確認できていない!
「やばいよ、あと2人どこだ。岸の方に流されたか? 沖の方か。とにかくレース海面を走り回って探すか?」
その時。
「あ! あの全チンしているヨットで手を振っている選手がいます!」
双眼鏡で、見ていた運営員が指をさして叫んだ。
その方向を見定めて、海燕はフルスロットルでヨットに向かう。
全チンしたヨットの船底に立って、手を振っている選手が見えた。近づくにつれて異変を感じる航太郎。1人しかいない。
もう1人はどこだ? もし、船から離れていたら行方不明ということになる。
「助けて下さーい!」
船底に立っているのは女子の選手だった。泣き顔だ。
「もう大丈夫だ。もう1人はどこかな?」
立っていた女子を海燕に乗せ、航太郎は、ヨットの周りを見ながら聞いた。
女子は、船底を指さした。船底の下、つまりコックピットにいるのか。何でヨットから出てこない。
晴海が、海に飛び込む準備をしている。
「松平さんちょっと待って、こんどは僕が行く。君は、何度も海に浸かって疲れている。ここで待ってて」
晴海は、素直にうなずいた。やはり疲れているのだ。航太郎は、いつでも海に飛び込めるようにジャージにトレーナー姿だった。
一度潜ってヨットのコックピットに入るには、ライフジャケットの浮力が抵抗になるが、潜るのは一瞬だ。行ける。
「先生、このロープの端を持って行ってください。何かあればこれを引いて合図を。すぐに行きますから」
航太郎は、晴海が差し出したロープを受け取ると掌に巻き、海に飛び込んだ。
ヨットの船底をドンドンと叩き耳を当てる。反応がない。果たしてこの中にいるのか。航太郎は、ライフジャケットの浮力を受けながらも水中に没し、ヨットのサイドデッキからコックピットに入った。
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