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 若き侯爵家当主ベンジャミンには、悩みがあった。それはいまだに婚約者がいないことである。別にベンジャミン自体が悪いわけではない。容姿は整っている方だし、性格も穏やかである。侯爵家に借金はなく、年の離れた実姉とも姉弟仲は良好だ。  問題は彼の両親にあった。父親も母親も、貴族の悪いところをこして煮詰めたような人間なのである。気位が高く、平気で平民を見下す。強い者には巻かれ、弱い者は踏みにじる。  跡取りとして長年当主教育を施していた実の娘を、待望の跡取りができたからと言って粗雑に扱ったあげく、売れ残りの畜産物を処理するかのように適当な男の元に嫁がせようとする。偶然が重なりベンジャミンの姉は密かに想いを寄せていた相手の元に嫁ぐことになったが、これはあくまで運が良かったからだ。  もちろんこれらの所業は最終的に周囲に知れ渡ることになったのだが、このような仕打ちを平気で行う輩であるから、嫁に来た令嬢をいびり倒すであろうことは誰の目にも明らかだった。地獄のような家庭に嫁ぎたがる令嬢などいない。  もちろんベンジャミン側の事情を承知の上で釣書を送ってくる家もあるにはあったが、少し手を回せば、立場の弱い令嬢が売られるように嫁がされそうになっていることくらい、簡単に調べがついた。  さすがにベンジャミンとて、雨に濡れた子猫のように震える令嬢たちに結婚を無理強いさせるつもりはない。必要なのは共に問題解決に取り組む信頼できるパートナーなのであって、お飾りの妻ではないのだ。  そもそもこの一件のあと、ベンジャミンは信用できる家令をつけた上で両親を田舎の領地に軟禁している。だが、自分が庇護しなければ生きていけなさそうな箱入り娘を娶ったところで、遅かれ早かれ結婚生活の破綻は免れないと思われた。
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