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 そんなベンジャミンにオーレリアを紹介してくれたのは、姉の結婚相手である侯爵家当主のケネスだ。職業柄顔の広い義兄は、思わぬところから話を持ってきてくれた。 「結婚相手を探すのに苦労しているのだろう? 良かったら、こちらのお嬢さんに会ってみてくれないか。少々変わっているところはあるが、性格の良さは保証しよう。今まで結婚はしないと言い張っていたのが、君となら結婚してもいいと言っているようでね」 「それは……。親御さんも困っているのでは?」 「さあ、どうだろうね?」 「俺は、無理して結婚する必要は感じていないんだけどな」 「恋も結婚もいいものだよ。君はいろいろと見過ぎてきたから、なかなかそうは思えないだろうけれど」  含み笑いをしつつ、義兄はひとりのご令嬢を紹介してきたのだ。製薬に関する功績で陞爵されたケネスと同様、薬を安価にかつ国内全域に流通させ、疫病の流行を食い止めたことを評価され貴族の地位を得た商家のご令嬢だ。  風変わりとは聞いていたが、変におびえることもなく快活で、朗々と歌うように話をしてくれる。振舞いが少しばかり芝居がかっているような気もしないでもなかったが、おどおどとすがるような眼差しで助けを求めてくるようなご令嬢よりも、ずっと好感が持てた。  とはいえ、オーレリアに対して気になる点がないわけではなかった。なぜか彼女はベンジャミンに対して、デートに行く場合は少なくとも一週間前までに詳細を知らせてほしいとお願いしてきたからだ。  デートの場所にふさわしいドレスや髪型、アクセサリーなど、女性は準備することが多いのだろう。そう考えたベンジャミンは素直に次回の予定について連絡を入れていた。  家業の宣伝も兼ねているのか、会うたびにがらりと雰囲気を変えてくるのには驚いたが、浪費家であるどころかむしろ金銭感覚はしっかりしている。さすが商家として名を馳せた家門の出身だと納得した。  そんなある日のことである。偶然、ベンジャミンが先触れなしでオーレリアの自宅を訪ねたことがあった。数量限定の人気の焼き菓子を手に入れることができたため、不躾ながら急遽自宅まで届けることにしたのだ。  ところがオーレリアは、なかなか自分の前には姿を見せなかった。急な来訪のため、支度に準備がかかることは理解できる。けれど、いつもと違いなぜか視線が合わない。恥ずかしがっているというよりは、何やら困った様子のオーレリアにベンジャミンは首を傾げた。終始うつむき気味で、顔も赤い。 (具合が悪いのか。あるいは、俺の来訪が迷惑だったのだろうか)  だが、次のデートの際にはオーレリアの様子はいつも通りに戻っていた。一体、あの時の妙な態度の理由はなんだったのか。それはベンジャミンの中で、オーレリアには聞けないもやもやとしてくすぶり続けることになったのだった。
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