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「麦がゆだよ。うすーくしておいた。
先生、あたしがあげてもいいかい? 今ちょうど手隙なんだ」
どうぞ、とグレイは片手で示し、自分は分厚い肉にナイフとフォークを突き立てた。女性はしっかり私と目を合わせて、笑顔を見せた。
「あたしはルイーザ。この食堂の店主をやってる。食事を手伝ってもいいかい?」
私はうなずく。手にあまり力がないから、申し出はありがたかった。
木のさじで口元に麦がゆが差し出される。薄い茶色の、とろみのある料理はとてもおいしそうだった。
「少しずつでいいからね」
口に入れる。あたたかい料理が、じんわりと体に染み込んでいく。おいしい。そうだ、食事ってこんなふうにおいしいものだった。誰かと一緒だかと、気持ちまであたたかくなって。
「あ、あり……」
口がうまく回らない。ありがとう、と言いたいのに言えない。もどかしい。
「お礼はまた今度でいいよ。今は体を大事にね」
まるで私の心を読むかのように、ルイーザは微笑んだ。彼女は二回、三回と麦がゆを口に運んでくれた。「おいしいかい?」と言われてうなずいた。
結局残してしまったけれど、ルイーザは終始笑顔だった。私の、ひどくゆっくりした食事に付き合ってくれた。
帰り際までお店は繁盛していて、「手隙だから」と言ったのは嘘だとわかった。でも店主を独占する私達に文句を言う者はいなかった。それどころか、遠巻きに私を見るたくさんの目が、優しかった。
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