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見舞い
グレイがまた今日もカーテンを開ける。外は明るい。永遠に続くかと思われた雨季は明けた。でももう、生気がないのは自分でもわかっていた。
グレイが朝食を慌ただしく食べる。最近患者が多いのだ。だけど疲れている顔の割に、目は輝いていた。
「昨日、研究が一段落した。
そろそろ記憶を取り戻す魔法を使おうと思う」
私は匙を置いた。
「もういい、グレイ」
「いい……って、なにが」
彼はきょとんとした。
「私のこと、助けなくてもいい」
「なんでそんなことを言うんだ」
「未来がないもの」
しん、とその場の空気が止まった。窓の外の、鳥のさえずりが耳に届くほどだった。
ややあって、グレイはまた口を開こうとした。
その時、小屋の扉が激しく叩かれた。
「先生、急患です!」
グレイが扉を開けると、中年の男性が血相を変えて立っていた。
「すぐに来てください。妻がひどい熱で……」
「今行く」
グレイはちらり、と私を見たが、すぐ支度にとりかかった。急患の対応が終わったら診療所を開けるだろう。きっと夜までまた仕事だ。
私は安心していた。それでいい。このまま、私のことなんか捨て置けばいい。ソフィアにグレイにルイーザ、町の人々はまっとうに生きてきたんだ。私とは世界が違う。魔族が倒されたように、私も倒されるべきだ。
体力もついた。瓶の中とは状況が違う。今なら自分の命を終わらせることだってできる。
白い手のひらをじっと見ていると、グレイが私の肩に手を置いた。
「また今夜話そう。
それと、今日はもうすぐあんたに客が来る」
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