見舞い

3/5
前へ
/31ページ
次へ
「昔、自分の子を助けようとして魔族に襲われてね。子供は助けられなかったし、腕はこうして肘から先がなくなった」 「そんな、ことが……」   明るいルイーザに辛い昔があったとは、思いもよらなかった。彼女はそばにあったグレイの椅子を引き寄せ、どっかり座って、遠い目をした。 「それで旦那とも別れた。たくさん泣いたし、苦しんだよ。一時は死のうかと思ったよ。でもね」  義手を、左手でなでる。また赤い光が走った。 「グレイ先生の父親、この人も医者だったんだけどね、あたしの魔力が通るような義手を勧めてくれた。あたしは学がないから魔法は使えないって言ったんだけど、『魔力は誰にでもあるから』って。実際、こうやって腕を動かせるようになった。  失ったものを一つ、取り戻せたような気がして、気持ちが明るくなった。それで何をしようと思って、気づいたら子供が好きだった料理を作ってた」 「……」 「たくさん作ったもんだから周りにおすそわけしてさ。おいしいって言われて、感謝されて、それが嬉しくて。  それからまた、いろいろ縁があって今はあの食堂をやってる。人生どうなるかわからないもんだね」 「すごい……」 「助けられなかった、ってのが負い目でずっと引きずっていたけどさ。  今は店を訪れる客は皆、勝手にあたしの子供のように思ってるんだよ」  ルイーザは幸せそうに笑った。 「いいですね。……私も、そんなふうになれたら……」  言いかけて真っ青になった。なんてことを。  私の涙はたくさんの人を間接的に殺してきた。ルイーザさんとは状況が違う。この人のような生き方はできない。してはいけない。 「まぁ、これはあくまでも、あたしの物語だ」  はっとして見ると、ルイーザは真剣な顔をしていた。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加