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運命の日
過去が蘇る。
城に魔族が攻めてきた日。私の視線は低かった。まだ今より小さかった頃の出来事。
私は領主の娘だった。所用で両親が留守にしていた隙を狙ったのか、魔族が一気に攻め込んできた。気づいた時にはもう手遅れだった。
残虐非道が嵐の形をとって、城の隅々にまで吹き抜けたようだった。人々はなぶり殺しにされ、後には地獄が残された。
私は、使用人達と大広間に集められた。
十二歳の誕生日を迎えたばかりの当時の私は、わがまま放題だった。大人達は死の恐怖に怯え、悲鳴を上げたり錯乱したものから殺されていたから静かだったのに、私ときたら死体を見てはきゃあきゃあと叫び、魔族に小突かれた。
私達の前に、フードをかぶった魔術師が現れた。
「誰か一人を黒魔術に使ってあげよう」
てっきり異形の魔族だと思っていたから、人の言葉を聞いて全員が息をのんだ。
「なんで人間が魔族に味方しているんだ!」
怒鳴った庭師は、魔術師の杖の一振りで全身を壁に打ち付け、沈黙した。
私は限界だった。普段の贅沢な生活が邪魔され苛苛していた。
「出てってよ! あたしの城よ!」
みっともなくわめく口を使用人がふさいだ。
「どうかお許しください。まだ幼い子です。
皆死ぬなら楽に死なせてください」
声は震えていた。
大人達は理解していた。黒魔術の材料となることがどれだけ恐ろしいことか。この場で敵に逆らうなんてどれだけ愚かなことか。
傲慢な私は理解していなかった。特別扱いが当然だと思っていた。
だから――言ってしまった。
「使用人はいくらでも差し出すから、あたしは助けなさいよ!」
大広間の空気が凍りついた。
「その子にしよう」
果たして長い爪は私を示した。私は使用人たちと視線を交わす。
なんとも言えない表情を浮かべた大人達は、次の瞬間首をはねられた。
「え……」
私は手に飛んだ血を見つめる。
事態の深刻さがじわじわと襲ってきた。
周りには魔族と、たくさんの死体。誰も助けてくれない。自分の言葉が聞き入れられないことを、ようやく思い知った時には遅かった。
地下室に連れて行かれた。魔族が運んできた瓶の中に入れられ、呆然とする私の前で、扉は閉まった。
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