運命の日

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 意識が戻って、最初に感じたのは木が燃えるにおいだった。パチパチと、(たきぎ)の音がする。 「大丈夫か?」 「……グレイ」  私の額は汗でびっしょりだった。彼の心配そうな顔に、薪の明かりが揺らめく。すっかり夜になっていた。 「私、あなたに前に会っていたのね」  私を助けに来て、彼の父親は死んだ。「ごめんなさい」とつぶやく。当時のことを思い出した野だろう、グレイの顔が一瞬悲しげに歪んだが、すぐ元の心配そうな表情に戻った。この人は、どこまでも私に優しい。申し訳なく思った。 「私のせいで、あなたのお父さんは……」  その後が続かない。何と言っていいかわからない。どう詫びても詫びきれない。彼の父親だけではないのだ、死んだ人は。使用人も、他の戦士達も。皆、私がきっかけで。 「親父のことは、あんたのせいじゃない。悪いのは魔族と、あんたを呪った魔術師だ。  それに、今の記憶が全てじゃない」 「……どういうこと?」 「あの魔術師は、あんたが涙を流すよう、辛い場面の光景ばかり読み取らせるようにしていたようだ。魔法陣はそのための抽出装置ってことだな。  だが、城内の水に刻まれた記憶は、見えないだけで消されてはいない。  この場所で、あんたの中に染み込んだ水の中から、全ての光景を呼び戻す」 「そんなことが、できるの?」  全ての光景。見えなくなった水の記憶。 「さらに心身ともに負担がかかるが、やれるか?」  額の汗は止まっていない。息が荒い。動悸がする。  私は唾を飲み込んだ。覚悟を決めてきたんだ、進むしかない、進みたい。 「全てを、知りたい。  ――グレイ、お願い」    彼の手が、優しく私の両目を(ふさ)ぐ。  再び意識が遠のく。真っ黒な闇の中、身体がどこまでも沈んでいくように感じられた。闇と身体の境目がわからなくなるくらいになって、そこでいきなり黒から白へと、空間の色が変わった。  これまでに見たことのない光景が、目の前に浮かんだ。
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