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転機
しばらく、水滴が落ちてこない日が続いた。そんなことはこれまでにもあったから、なんとも思っていなかった。
「もう終わったのかも」と微かな希望は何度だって打ち砕かれてきたのだから。期待するだけ、水滴が落ちてきた時の絶望は大きくなる。
だけど、永遠に続くと思われた日々は、本当に突然終わった。
私はその日も、ぼんやりと瓶から地下室を眺めていた。それしかすることもない。
ふと、空気が変わったような気がして振り向いた。水を回収に来た魔族かと思ったが、違う。鉄の扉が音もなく開いていて、一人の男が立っていた。
カンテラの光が持ち主を照らす。背の高い、灰色の髪の若い男が立っていた。
「来ないで、私に構わず逃げて」
そう言いたくても声が出ない。咳き込んだ私は、諦めて彼に背を向けた。溜まった水が波打つ。
ここに辿り着き、扉を開けた者は過去にもいた。私を見て、助けようとした優しい人達。
皆、死んだ。
きっと、この人も死ぬ。
おとぎ話のように私が救われることなどありえない。
打ち砕かれると分かり切っている希望など、最初から見ないほうがましだ。
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