26人が本棚に入れています
本棚に追加
瓶の外へ
現実じゃないみたいだ。瓶の外に出るなんて。何度瞬きをしても、目の前の景色が
身体がぐらり、と傾く。
「おっと」
男は私を支え、「歩くのは久しぶりか」と抱えてくれた。
見上げると、杖の宝玉と同じ青緑の瞳が煌めく。
「あんた、名前は?」
首を振った。思い出せない。他の思い出と共に、失われた記憶の中だ。
「俺はグレイ。よろしくな」
私はうなずいた。
彼は私を抱えて階段を上った。途中、足元に転がる魔族の死体を避けた。そのまま、突き当たりの扉を開ける。通路の向こうから歓声がどっ、と耳に飛び込んできた。意味のわからない魔族の言葉とは違い、「やった!」「取り戻したぞ!」と人々が勝利を祝う声だとわかった。
「終わったみたいだな」
グレイがぽつりとつぶやいた。大声で叫ぶでもなく、かえってこれからが大変だというような、静かな台詞だった。
最初のコメントを投稿しよう!