瓶の外へ

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「なぜ、たすけた」  荷馬車ががたごと揺れる。  言葉が出るようになったのは、城を出て3日目のこと。  私は荷馬車に寝かされていた。干し草を詰めた袋の上、布をかけられている。荷馬車には(ほろ)がついていて、日中熱い日差しから私を守ってくれた。時折彼は私に杖をかざす。青緑色の光に照らされると、身体が少しずつ楽になっていった。 「……ああ、覚えてないのか」  彼は手網(たづな)を握ったまま振り向く。 「俺にはあんたを助けたい理由があるんだよ。それに、まだだ。  」 「……?」  何を言っているのかわからない。これから先のことも、まるで見当がつかなかった。  ついでに尋ねてみる。 「どこいくの」 「俺の故郷」  聞いてはみたけれど、正直どこでもよかった。あの忌まわしい城から離れられるなら。  唇や指が動かしやすくなると、もう二度と前の状態には戻りたくない、と思うようになった。狭い瓶の中の息苦しさもない。荷馬車に揺られ、グレイの背中越しにでも私は世界を感じた。日の出から、夕方日が沈み、星が瞬くまでの空の色の移り変わりに草のにおい、土のにおい。どれもこれも日々違う。見ているだけで刺激になった。  一方で、「助かってよかったんだろうか」という疑問は大きくなっていった。瓶の中では「こんな目に合っているのは自分のせいだ」と意識していて、それは今も変わっていない。その正体がわからないまま、外に出てよかったのか。荷馬車はどんどん城から遠ざかり、どこかを目指している。外の刺激は時に強すぎて、私は目を閉じて考え事をした。あのまま、瓶の中にとどまっていた方が正解だったのでは……。 「こりゃ降りそうだな」  グレイの声で目を開けた私は、彼の背中越しに空を見て固まった。  雨雲が立ち込めていた。空の暗さが、あの地下室に似ていた。  ぽつ、と幌の上に、雨粒が落ちてきた。
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