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雨音
ぱしゃ、ぱしゃ。
雨が降る。絶叫が頭に響く。城を出たのに、死の情景が離れない。
逃れようと耳をふさぐ。それでも脳裏によみがえる光景に、どうにかなりそうだった。
皆、死んだ。生きたかっただろうに。
どうして私だけ助かったんだろう。外に出て、光を感じて、自由になれたと思っても、まだ過去は私を離さない。
ソフィアの目を思い出す。あの目は、殺された者達が魔族を見る目にそっくりだった。
「……ずっと閉じ込められて、つらかったな」
肩に置かれた手の感触。瞼を開く。
いつの間にか荷馬車はとまっていた。
「悲しいんだろ? 泣いていいんだ。
俺が聞いているから」
雨音の中、声がはっきり聞こえた。
私の中で、細く張りつめた糸のようなものが、ぷつん、と切れた。
私を気にかけてくれる人がいる。言葉から伝わるあたたかさに涙がこぼれた。こんなに優しくしてもらっていいんだろうか。城で機械的に流れていた涙ではなく、私の意志で出た涙は止まらなかった。後から後から流れる。頬を伝い、グレイが差し出したハンカチに染み込んだ。
「うっ……ああ……」
グレイは私の頭を優しく撫でてくれた。
幌を打つ雨の音はいつ鳴りやんだかわからなかった。私はそのうち泣き疲れて、眠ってしまった。
久しぶりの眠りだった。
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