食堂

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 何日か経って、荷馬車は町に到着した。途中寄った小さい村とは違い、ここは大きな町だった。とてもにぎやかだ。人々の足音や交わされる会話は、私が助けられた時の城とは違っていた。挨拶を交わす声、店主と客がやりとりする声、子供たちのはしゃぐ声。弾むような声があちこちであがり、そんなふうに声が高いのは皆笑顔だからだ、とわかった。元気で、活気がある。 「ここが俺の故郷だ。いい町だろう?」 「……うん」  私は上半身を起こせるようになっていた。城とは趣が違う、石造りの建物があちこちにひしめき合っている。彼の言う「いい町」というのはきっと、人々が明るいからだろう。そこまで考えて、ふと思った。  私はあの地下室にいる前は、どこにいたんだろう。  答えは出そうになかった。彼は町の片隅に荷馬車をつけると、私を背負って大きな館に向かった。食べ物のにおいがした。パンを焼き、肉を焼くにおい。扉を開けると、それはいっそう強くなった。 「いらっしゃい! おやグレイ先生! 久しぶりだねぇ!」  体格のいい女性から、張りのある大きな声がかかった。「グレイ先生だって?」と誰かが声をあげ、「本当だ」と誰かが言う。そこから次々と声がかかる。 「先生、旅はもう終わったのかい?」 「腰がいてぇんだ。いつから診てもらえるかな」 「無事でよかったよ」  老若男女幅広く、グレイに声をかける。 「わかったわかった。明日から診療所開けるから」  私は客達に注目されながら、一方で彼らの姿に驚いていた。  全員が怪我人だった。義足だったり、車輪付きの椅子に乗っていたり。  この人達は、一体。それに、私のことも不思議がったりしない。ソフィアのように敵意も向けてこなかった。  テーブルにつくと、私は変わった形の椅子に座らされた。寝かせられた、といった方が近いかもしれない。布が敷き詰められた、まるで赤ん坊が入る籠のような椅子だ。頭も背中も守られている感じがして、心地よかった。  グレイは隣に座ると、厨房の方に向かって声を張り上げた。 「俺は肉! この人にはなにか、消化しやすいものを頼むよ」 「あいよ。麦がゆでいいかい?」 「ああ」  寝たまま会話を聞くのは、妙な感覚だった。テーブルの横には窓があり、グレイは町並みをぼんやり見ていた。時折、知り合いらしい人が気づいて手を振ってくる。グレイは振り返すと、私の視線に気づいたらしい。 「びっくりしたか?」 「うん」 「この町には顔見知りが多いんだ」  やがて先程の女性が料理を運んできた。
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