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激しい嵐が去り、耳が痛いほどにセミが鳴いた夏だった。
うんと暑い夕暮れだったが、テレビにもおもちゃにも飽きた僕は思い切って、外に出て家の玄関先で、ぶらぶらと時間を潰していた。
「よっちゃん」
上から声をかけられて見上げると、幼馴染のせいちゃんがいた。
「せいちゃん、もう家の用事、終わったん?」
「うん。終わった。約束やぶいてもーて、ごめん」
僕は首を横に振った。
僕達は嵐が終わったら遊ぶ約束をしていたのだが、せいちゃんに用事ができて急にダメになったのだ。
「かまへんよ」
「そっか、ありがとう。なぁ、今から遊べへん?」
僕は首を傾げる。
今は夕暮れ時。いつも日が暮れるぎりぎりまで遊ぼうと誘う僕に対して、「危ないから帰ろう」と諭す真面目なせいちゃんが、ずいぶん悪いことを言うもんだと思った。
「ええけど。おばさんに怒られん?」
せいちゃんはうつむいて、犬のように首を振った。
そして、おもむろに右側のポケットに手を突っ込んだ。
「今日は、大丈夫。
それに、ええもん見せちゃる」
ほんまかいな。と思う反面、白いシャツに黒いズボンでいつもより畏まった身なりのせいちゃんに、僕は思わず期待した。
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