龍の骨

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 大学生の終わり。僕は久しぶりに地元に帰ってきた。 夕暮れの寂れた無人の駅に降り立つと、蝉の鳴き声がわっと襲ってきた。 同時に、友達を思って涙を堪えたあのみっともない日々が鮮明に思い出されて、思わず微苦笑する。 全てのことの発端とも言えるほど、僕に混々と龍神の話をした祖母の3回忌のために僕は、ここに帰ってきた。 僕は、青々とした田んぼの横を通り、キラキラと太陽を反射する豊かな川の橋を渡り、まさに龍の住む秘境の地となりつつある、故郷を歩いた。 家に帰る途中で、墓掃除をして来いと言われたので、照りつける日差しにうんざりしながら、僕は墓地へと向かった。 山の斜面にある墓地はこの村を見守るようにして、ひっそりと佇んでいて、 まさか人がいるなんて思ってなかった。 「嘘、せいちゃんやん」 向こうもまさか声をかけられるとは思っていなかったのだろう、大きくのけ反り、僕を警戒した。けれど、すぐに彼も驚きの表情にかわる。 「よっちゃんやん」  僕達はまるで運命的な出会いを果たしたカップルのように、言葉もなくお互い近づいた。 「まさか、こんなところで会うとは思わんかった」 「僕もや」 と、せいちゃんが言った。 「せいちゃん、あのさ、ほんまごめん。龍の骨。盗ったん僕や」  僕の口から、長年の積雪が零れるように、自然に言葉がでた。  ずっと言おうと思っていた。  ずっと心に引っかかっていた。  だって、せいちゃんは絶対に骨を無くしてすごく傷ついたはずだから。あれはそれほどのものだったのだ。  真実を知った僕は、ただ盗んだやつだけでは済まなくなっていたのだ。  なのに、せいちゃんは突然笑い始めた。 「え、ちょっと待って、なにが、おかしいん?」 「いや、だって、だってさ、龍の骨って。ダッサ!と思って」  せいちゃんは腹に腕を回して、顔を隠しながら笑った。  まぁ、言われてみればかなりダサイ。  ファンタジ―に憧れる気持ちが全面に出ていて、男子の妄想がぎゅっと濃縮されている。 「龍の骨って…ははは」 「いや、それ言い出したんせいちゃんやから!ダサい名前つけたん、せいちゃんやん!」 「しかも、お前、めっちゃ信じてたもんなぁ。……あっははははは!」 「笑い事ちゃうで!」
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