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そこには木の板に描かれた、龍の絵が飾られており、じっと僕達の方を見ていた。
僕は顔をせいちゃんに戻す。
「それって、ほんま?」
「ほんま」
「龍って、おるもんなん?」
「おらんもんは絵にかけへんと思うし、話すらせんと思う。
ほら、サンタさんだって普段は見んけど、おるやろ?」
サンタを引き合いに出されて、僕は納得した。
確かに、あの異国のおじさんは本当にいた。だって、クリスマスの朝にはプレゼントが置いてあったのだから。
それに、一緒に住むおばぁは、いつも龍神様の話しをした。
『ええか。龍神様は何でも見てはる。悪いことをすると、龍神様に連れてかれるぞ』
祖母の鬼気迫る語り方を思い出し、恐る恐る振り返ると、龍の飛び出た目が、一瞬、ぎょろりと動いた気がした。
僕は身ぶるいして、せいちゃんに体を寄せる。
「もう龍は死んでるん?」
「死んでる」
「そうなんや。そしたら、この骨、誰にもらったん?」
「にーちゃんにもろた」
「すごいな!」
さすが、せいちゃんのお兄ちゃんだ。と僕は感心した。
「ここの龍やろか?」
「それは分からん」
「そうなんや。そしたら、また兄ちゃんに聞いといてな」
と僕は言った。
何にせよ、今手の中にあるのは龍の骨だ。
それは今までの「ええもん」とは比べ物にならないくらい特別なものだ。
「ええか、これは二人だけの秘密や」
きっぱりした声でせいちゃんが言った。
真剣な眼差しでそう言う彼の横顔に僕は頷いた。
「うん。わかった。二人だけの秘密や」
『秘密』
いつその言葉を聞いて、覚えたのかは、もう思い出せないけれど、僕はこの言葉の重要性を知っている。
些細なことを、隠し通したことだってある。
けれど、他ならない、せいちゃんとの秘密だ。特別も特別。
手のひらの石が重さを増し、同時に自分の背が少し伸びた気がした。
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