龍の骨

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 ズボンのポケットから、物を盗むことは容易ではなかった。  何せ、ずっと履いているものだからだ。  僕の田舎の学校は指定の体操服を四六時中着ていて、体育の時間も着替えることなんて滅多にない。  彼を襲って、ズボンを剥ぐこもも考えたが、これは駄作だ。だから、 『ズボン脱げ、ズボン脱げ、ズボン脱げ!』 怨念にも似た思いで、僕はせいちゃんを見つめ、そのチャンスを伺った。  そして、想いは叶う物だ。 せいちゃんのズボンに、隣の女子が思いっきり汁物を溢したのだ。 日頃からノロマでグズな女子だと思っていたが、この時だけは笑顔で、僕は助け舟を出した。 「おい、大丈夫か? こいつも悪気があったわけやないんやから、責めたるなって。 それより、早う保健室行こう。 僕が一緒に行っちゃる」  そこまで言われては、せいちゃんも大人しくなるしかない。 しめしめと思いながら、僕は僅かだが、この好機を逃すわけにはいかなかった。  保健室に行くと、先生はすぐ代わりのズボンを用意した。  僕はじっと彼の動向から目を離さず、ズボン脱げ、ズボン脱げ、ズボン脱げ!と念じた。  誰にも気づかれなかったからよかったが、あの時、僕の目は異常だったに違いない。 「そしたら、貸し出し表に名前描いて」 先生がそう言って、二人の視線がズボンから外れるタイミングがついにきた。 せいちゃんの枯れ草色の短パンは、椅子の上に無造作に置いてある。 二人の顔と注意記入用紙に向けられ、こちらに注意は払われてない。  僕はあまりの幸運に身ぶるいがする。 そして、せいちゃんのズボンのポケットに手を入れる時、恐ろしく冷静だった。 目的が目の前にあり、決めたことを淡々とこなすだけ。恐れがないことは、一切の無駄を作らせなかった。  僕はすっとポケットに手を入れ、ぱっと骨を掴んで引き出した。  何をそんなに書くことがあるのか、二人はまだこちらの様子に気づいていない。  心臓はバクバクと激しく鼓動を打つが、顔に全神経を集中させ、それを宥める。  もう後には引けなかった。  
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