SDジーンズ

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 うちの父さんは物持ちがいい。中には30年前から着ている服もあるそうだ。そういう服って、一周りして格好良かったりする。  俺が父さんのウォッシュ加工されたダボッとしたジーンズを持ち出したのも、普通にファッションとして取り入れられそうだったからだ。  履いてみるとゴワゴワとして重かったが、悪くはない。  学校で習ったSDGs(エスディージーズ)というやつ。所謂(いわゆる)「持続可能な開発目標」という中にも、「12.つくる責任つかう責任」という項目があった。  古着の再利用なんて、その最たる見本といえるだろう。  姿見の前でポーズを決めていると、テレビの中で、どこかの企業のお偉いさんが、コメンテーターをしているのが目に入った。  丁度「サステナブル」というテーマについて講話している。パリッとした流行り物のスーツやネクタイ。いかにもやり手って感じだ。  ポケットに手を突っ込んで訝しげにテレビを見ていた。すると不意にポケットの中で指先に何かが当たったので、それを引っ張り出す。  くしゃくしゃの紙だ。ほどいてみると、煤けた紙にかすれたインク、それでも分かる、レシートだった。  その日付、なんと10年前!  俺が10歳の時のレシートってことになる。父さんもズボラというか何というか。せっかくなので、10年前の父さんが何を買ったのか目を凝らす。 「デラックス……飛行機セット……?」  独りごちて思い出した。  これって、俺が誕生日に買ってもらったおもちゃだろ!  全然売ってなくて、何軒も何軒も父さんとまわって、ようやく隣県まで行って買えたやつだ。ほら、レシートの内容も、そうなっている。  ……テレビの中のお偉いさん、アンタのきれいなスーツのポケットの中からは、10年前のレシートが出てくるかな?  10年前の思い出を再利用して、人を和ませられるかな?  SDGsという面において、アンタよりうちの父さんの方が、絶対優れた人間だと思う。少なくとも俺はそう思う。  俺も受け継ぐよ、その人間性と、このケミカルウォッシュなSDジーンズを。
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