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1. 空に歌う人
その人は公園のベンチに座り、空を見上げていた。
青空でもなく、面白い形の雲が浮かんでいる訳でもない、今にも雨粒が落ちてきそうな、ただどんよりと曇った空を。
空に向かって小さく唇を動かしながら……。
そして足元に何かがまとわり付くのに気づくと、大きな背中を屈め、子どものような笑顔を浮かべた。
屈めた背中の向こう、ベンチの横に、ギターケースが立て掛けられているのが見えた。
「ルナ!」
私は声をかけながら歩み寄る。
その人の足元には二匹の猫がいて、彼の差し出す手のひらから何かを食べていた。
「え、ルナ? ……」
彼は私に目を向ける。
彼の座るベンチに、スナック菓子の袋が置いてあるのが目に入った。
「あ、あの……鳩じゃないんで、ポップコーン猫にあげるのは……」
「えっ? あ、これポテチ……」
「尚更 良くないです。塩分と油分が……」
「そうなの? ごめん。おい、ダメだってよ」
彼は素直にそう言った後、お菓子を乗せた手を引っ込め、腕に丸く白い両手を掛け、爪を立てて縋り付こうとする猫から逃れた。
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