猫とブルーモーメントの奇跡

１. リバイバル

　ギター　駿(しゅん)
　ベース　涼平(りょうへい)
　ドラム　順太(じゅんた)
　そして、ボーカルの奏詞(そうし)

　ステージ上に立っていたのは『Moon Cat』のメンバーで、センターでマイクを握っているのは、確かに “ ボーカルの奏詞 ” そのものだった。

SNSで拡散されたのか、遊園地の入口方面から、
遊園地の奥の方から、
更に遊園地のすぐ隣にある学園の制服を着た生徒達も、
続々とこのステージに集まって来て、いつの間にか立見スペースは満員電車内のような状態になった。

　『Moon Cat』のメンバーは、ちょうど一年前のこの日、車で移動中に交通事故に遭った。
　ベースの涼平、ドラムの順太は軽症だったものの、
ギターの駿は腕と指を骨折、
ボーカルの奏詞は、命を落とした。

　アマチュア時代から実力に定評があった彼らのバンドは、大手音楽事務所にスカウトの後、デビューして僅か一年ほどで、日本中の大きなホールでライブができるまでに成長した。

　アメリカで恵まれた環境の中でレコーディングを終え、昨年の夏には、大きなフェスのセンターステージに立つことも決定していた。

　その矢先の出来事だった。

　当時、世間は騒然となり、マスコミは揃ってこう報じた。

「唯一無二の素晴らしい歌声を持つ彼を失くしたことは、音楽界の大きな損失。
またギタリストも、腕と指の骨折で再起が危ぶまれる状態。
バンドの存続は難しいだろう」

　そうして彼らは、事実上、解散の状態に追い込まれてしまったのだった。