2. あの日の約束

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2. あの日の約束

 彼が居なくなっても、季節は当たり前のように過ぎていき、また夏が巡って来た。  一週間前の夕方、ギターの駿(しゅん)さんが、大学の正門の近くで 、私を待っていた。  私は彼らのライブを何度も見に行っていたので、一方的に駿さんを知っていたものの、彼が私のことを知ってるとは思いもしなかった。  一年前より少し髪が伸び、痩せた感じに見えたが、驚きと懐かしさに、私はすぐに言葉が出なかった。 「突然、押しかけてごめん。君の顔と、奏詞と同じ大学だったということしか知らなかったから。少し話せるかな……」  そして近くのカフェに入り、向かい合って座ると、私はアイスコーヒーのグラスに目を落とし、駿さんが口を開くのを待つ。  グラスの中の氷をストローで掻き回していた彼は、少し逡巡(しゅんじゅん)した様子で視線を彷徨わせ、背中を伸ばすと真っ直ぐに私を見て、信じられない話をし始めた。 「一昨日、夢に……奏詞(そうし)が出て来てね、 『7月18日の夜、 “ 星屑のステージ ” で歌いたいから、付き合ってくれ』そう言ったんだ。 目が覚めても、やけに鮮明に覚えていて……。 勿論、ただの夢だと思った。でも、涼平も順太も同じ夢見ててさ…… これ、ただの偶然じゃないと思ったんだ」  私は息を()み、口を手で覆う。 何故なら私も、夢に彼が出て来て言われていたのだ。 「星屑のステージに来て欲しい」 ……と。  私も当然、自分の願望が生み出した夢だと思っていたし、それでも夢で会えた彼に心が揺さぶられ、目覚めたら、ただ泣いていて……
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