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今夜もあの日と変わらない夏の夜なのに、やはり彼の歌声は、どこか冬の夜を思わせるように澄み切っていて、深い青から紺瑠璃に色を変えた空に突き抜け、薄雲をも震わせるようで……。
そして、甘く切なく耳の奥を震わせながら心の真ん中に滑り込んで来る……。
溢れてくる涙のせいで、彼の姿がぼやけてしまう。
お願い……今だけは……。
溢れないで……涙。
歌う彼の表情を、姿を、全て目に焼き付けておきたいから。
1コーラスを歌い終わり間奏が流れる中、彼の目が観客達の顔を確認するようにぐるりと動く。
私を探してくれているのだろうか……
こんなに大勢の人の中で、彼が私を見つけてくれるはずはないと思った。
けれど……
突然、私が立っていた横にある噴水が、水しぶきを高く吹き上げた。
噴水の支柱に乗った月と星のオブジェが白く光り、水面と辺りを明るく照らす。
彼の視線が私を捉え、柔らかな微笑みを見せた。
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