4. 温かな五分間

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4. 温かな五分間

 夜道を暫く歩いて、後ろを振り返る。  ライトアップされたアトラクションが、煌びやかに夜を彩っていた。  さっきまでの出来事が、まるで夢を見ていたみたいだ。  その中でも一際華やかな光を連れて、ゆっくり回る観覧車。  折角 遊園地に来たのだから、観覧車だけでも乗ってみようかとも考えた。  それに乗って一番高い場所まで行けば、少しでも彼の近くに行けるのだろうか……と。  そんなことをぼんやりした頭で考えてはみたものの、泣き腫らしたこんな顔で、一人きりで観覧車に乗るのは流石に気が引けて、私は賑わいに背を向けて一人で外へ出た。  駿さんが言っていた『』……  それがどんなことなのか、結局何も分からず、電車に揺られながら窓から外を眺める。    いつも見る景色とは違っていても、目の前に広がっているのは、何の変わり映えもしない夜だ。  車内に目を向けると、吊り革に掴まり談笑する、元気そうな学生のグループ。  一日の仕事を終え、疲れ切って、シートに身を投げ出すように眠っているサラリーマン。  反対側のドア付近には、デート帰りのような甘い雰囲気のカップル。  きっとこれも、いつもの何ということのない光景なのだろう。  電車を乗り継ぎ、見慣れた景色が窓ガラスの向こうに見えてきた。  どこか現実味のなかった今日の出来事が頭の中から消えないまま、目に映る見慣れた風景は、私を現実へと引き戻そうとする。    駅のホームに降り立ち、一緒に改札を通り過ぎた人々の姿は、散り散りになり、家路を急ぐ。  いつの間にか周りに人影もなくなり、街灯の灯りが私一人の影をつくる。  昼間に比べ少しだけ涼しくなった風を感じながら、家までの道をただ歩く。  見上げた星空に、彼の姿を探しながら……。
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