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 光輝が目をすがめる。チラッと見ると沙織が考える表情で自分の唇をむにむにいじっていた。光輝はかぁっと顔に血がのぼりかけ空咳をした。なんだよ、もう!  「じゃあ、ありきたりだけどこんなのはどう? ポケットには万引きした商品が入ってる。彼女は自分の犯した犯罪を知られたくなかったの」  光輝の心中など知る由もない沙織はまだポケットの中に固執している。 「デート中にそんなこと、しないだろ」 「窃盗癖って言うんだっけ? 理性ではどうにもならないって聞いたことあるよ」 「なきにしもあらずだけど、ちょっとなぁ」 「泥棒っていったら、沙織の方だろ。そのコート、元あった場所に戻せよ」  すっかり不機嫌になった光輝に、沙織の顔から元気が消える。沙織が引き返して、渋々コートを元あった植え込みに戻して行ってしまおうとすると、 「ちょっと、あなた!」 と、呼び止められた。振り返ると立っていたのは中年の女性。知らない人に声をかけられ困惑する沙織に、おばさんは頬を膨らませた。「手!」「は?」「手を出して!」首を傾げた沙織がおずおず両手を差し出すと、戻したはずのコートがぽんと出した両手の上に置かれた。 「何が気に入らないか知らないけど、物は大事にしない。道路はゴミ箱じゃないの! 全く、近頃の若い子は」
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