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「幸さんは気づいたのね、東堂くんのお母さんに会って。だから別れるって言ったんだ」
「パスケースに入れるなんて、肌身離さず持ってたんだろうな」
「お母さんに会いたかったんだわ」
「そうなんだろうな」
「なのに、結婚したいって決意した東堂くんの母親が自分のお母さんだった……ううっ、寒」
涙ぐんだ沙織がぐすんと鼻を鳴らすと、光輝はムッと唇を尖らせる。
「寒くなんかないだろ。俺のコート貸したのに」
「幸さんのは、ふんわり軽くて暖かかったの!」
「安物で悪かったな!」
「……それにしても、東堂くんと幸さん、可哀想」
「姉弟じゃ、仕方ないだろ」
「あーあ、二人が将来結婚したら「私は知ってたのよ」って自慢できると思ったのになぁ」
「うわ、くだらない」
「くだらないって何よ!」
沙織が光輝に向かって拳を振り上げて見せると、今度は光輝が「クシュ!」とくしゃみをした。
「大丈夫? うわ、鼻水。ティッシュ、ティッシュ……」
と、沙織が光輝のポケットに手を入れる。それを見て、
「あ、待て」
と、光輝が止めるがひと足いやひと手? 遅かった。
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