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「あー……」と脱力する光輝を前に、ポケットに手を入れてしまった。
と、沙織がピタリと動きを止める。
神妙な面持ちで沙織がそろそろと手を出す。手はパーの形まま光輝を見た。
「あのさ、私、今回のことで学んだんだよね。人のポケットの中身は簡単に見ちゃいけないって」
光輝がぽりぽり頭をかいて、
「……いや、いいよ。見ても」
と答えても、沙織は首を横に振る。
「嫌だよ」
「なんで?」
「光輝と私が姉弟とか、そういう証拠なら嫌じゃん」
沙織の真剣な顔に、光輝は思わず吹き出た。「ばーか」と、沙織の頭をはたく。はたかれた頭をさすった沙織はハッと自分の手のひらを見た。
「まさか、鼻水つけたんじゃないでしょうねっ」
「バッ……鼻水なんて」光輝は言い返そうとし……、フワッと微笑んだ。
「プレゼントだって。お前に!」
「へ?」
キョトンとした沙織と、笑みを含んだままの光輝の瞳がぶつかる。
「誕生日だろ、今日」
ふいっと目を逸らした光輝と、沙織の頬が、寒さのためでなく桜色に染まったのは同時だった。
〈了〉
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